内容説明
17世紀、絢爛たる宮廷音楽の時代。ヴィオールを弾く二人の天才は、妻や恋人との悲劇を超えて、厳粛で官能的な音の織りなすバロックの世界へ旅立った。そして―世界のすべての朝は二度と戻ってこない。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
KI
26
私とあなたのあいだを埋めるのは、言葉でも声でも想いでもなく、たったひとつの感情だ。2019/11/20
燃えつきた棒
19
長篇小説がはたと読めなくなってしまったので、今回は映像と音楽の力を借りることにした。 この作品は、20年以上前にアラン・コルノー監督の映画(マレ:ジェラール・ドパルデュー、マドレーヌ:アンヌ・ブロシェ)を観て、ヴィオールの深みのある響きの虜になってしまい、それ以来CDは愛聴盤にしている。 2015/11/11
YO)))
16
物語の主人公であるバロック期の作曲家、サント・コロンブ氏のことを存じ上げないままに読んだのだが、ヴィオール=ヴィオラ・ダ・ガンバの名手とのことでテンションが上がり、「膀胱結石手術図」という題の奇矯な曲で知られるマラン・マレーの登場に至って更に興奮の度合いが高まった。 キニャールが"失われた影"を繊細な螺鈿細工の如く紙幅にプロットする手付きの、その精密の度合いには惚れ惚れするしかない(「辺境の館」に負けず劣らず)。2021/01/04
Hepatica nobilis
16
弟子マラン・マレとの確執を通じて、『光の世紀』の隠者サント・コロンブを描いた中篇。サント・コロンブはマレ・ブームの頃にCDが出ていたから多少知名度はあるものの、マイナーな人物に光を当てている。オーソドックスで奇を衒わない筆致で詩情豊か。史実はほとんど明らかになっていない闇の部分に創作の光をあてて感動的な出来。2017/09/24
吟遊
15
映画のタイトルとして知っていた名前の原作。古楽が好きなので余計に楽しめる。サント・コロンブ氏のキャラクター造形も魅力的だが、それだけでなく、周りに張り巡らされた人物たち、その意図、そして時間の流れが、すべて絹糸のようになめらかに絡み合っている。2018/05/27