内容説明
気高い美女イザベラには婚約者がいた。が、冷酷ともいえる野心家ゲイブリエルに荒々しく抱擁されて彼女は悟った。この心の歪んだ男を救わねばならないと。やがて彼女は婚約者を捨て、ゲイブリエルとの駆け落ちを決心する…男のために新たな道を歩き始めた女の姿をキリスト教的博愛をテーマに描く至上の愛の小説。
著者等紹介
クリスティー,アガサ[クリスティー,アガサ][Christie,Agatha]
1890年、保養地として有名なイギリスのデヴォン州トーキーに生まれる。1914年に24歳でイギリス航空隊のアーチボルド・クリスティーと結婚し、1920年には長篇『スタイルズ荘の怪事件』で作家デビュー。1926年には謎の失踪を遂げる。様々な臆測が飛び交うが、10日後に発見された。1928年にアーチボルドと離婚し、1930年に考古学者のマックス・マローワンに出会い、嵐のようなロマンスののち結婚した。1976年に亡くなるまで、長篇、短篇、戯曲など、その作品群は100以上にのぼる。現在も全世界の読者に愛読されており、その功績をたたえて大英帝国勲章が授与されている
中村妙子[ナカムラタエコ]
東京大学文学部卒、英米文学翻訳家
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感想・レビュー
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ちゅんさん
63
『春にして君を離れ』と同じ系譜の作品で大きな事件は起きない、がクリスティーの凄みが存分に味わえる傑作だと思う。最後まできっちり説明されてないので解釈も人によって違ってくるだろう。また出てくるセリフも素晴らしくてもう唸りっぱなしで読み終わった後はしばし呆然としてしまった。こういうのが読みたかったんです。クリスティー、すごい。2022/04/06
NAO
60
何を考えているのかよくわからないイザベラのミステリアスな雰囲気が、ハマる読者には面白いのかもしれない。でも、やっぱり、よくわからないなあ、イザベラ。テレサもあまりにも出来すぎていて、ちょっと現実味を欠いているし、私にはあまり向かない話だった。2024/03/19
優希
51
婚約者を捨て、別の男と駆け落ちを決意するのが潔いと感じました。男のために自らの道を歩き始めた姿をキリスト教に重ねて描くのに至上の愛を見たようでした。2023/11/28
yumiha
50
エリオットの詩から引用した「the Rose and the Yew Tree」(生と死を暗示)を「暗い抱擁」なんて的外れな昼メロ不倫的俗っぽい訳にされたのが気に入らない。全く逆なイメージのイザベラは、人物も物事も本質だけを見ている、とても稀なピュアなヒロイン。結果的に悲劇を招き寄せたにしても、イザベラにすればきっと納得の上だったのではないか?語り手ヒューには見えなかったゲイブリエルの本質を見抜いていたのだと思うので。少なくとも自己憐憫に浸って振る舞うジェニファーやミリーより、ずっとずっと好ましい。2021/11/11
shikashika555
44
ミステリーではない。が、人の心の襞をこじ開けてすくい出したものを 無駄のない少ない言葉で物語にして描き出す手法はまさに 天才的! 主要キャラクターのゲイブリエルは胸糞が悪くなるほど過去の怒りに囚われて生きている、頭のキレる人でなしの醜男だ。 んでも、彼の怒りの源泉に 心を寄せる人も多いのではないだろうか。 誰でも人生に一度くらいは「貶められるマイノリティ」の立場に立つはずだもの。 大概の人はそれとは違う側面を自分のメインキャラクターとして生きる。 ゲイブリエルはずっと、足を取られたままだったのね。2020/01/10