内容説明
奔放なオペラ歌手ジェーンの歌声に魅せられたヴァーノンは、婚約者のために一度はあきらめた音楽家への道を再び呼び醒まされた。それはまたジェーンへの愛の兆しでもあった。平凡な幸せを望む心とは裏腹に、二人の女性を愛し、音楽家としての野心に取り憑かれた天才芸術家の愛と苦悩を流麗な筆致で描く大河小説。
著者等紹介
クリスティー,アガサ[クリスティー,アガサ][Christie,Agatha]
1890年、保養地として有名なイギリスのデヴォン州トーキーに生まれる。中産階級の家庭に育つが、のちに一家の経済状況は悪化してしまい、やがてお金のかからない読書に熱中するようになる。特にコナン・ドイルのシャーロック・ホームズものを読んでミステリに夢中になる。1914年に24歳でイギリス航空隊のアーチボルド・クリスティーと結婚し、1920年には長篇『スタイルズ荘の怪事件』で作家デビュー。1926年には謎の失踪を遂げる。様々な臆測が飛び交うが、10日後に発見された。1928年にアーチボルドと離婚し、1930年に考古学者のマックス・マローワンに出会い、嵐のようなロマンスののち結婚した。1976年に亡くなるまで、長篇、短篇、戯曲など、その作品群は100以上にのぼる。現在も全世界の読者に愛読されており、その功績をたたえて大英帝国勲章が授与されている
中村妙子[ナカムラタエコ]
東京大学文学部卒、英米文学翻訳家
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
優希
52
クリスティー作品ですが、ミステリーではありませんでした。音楽家の愛と苦悩の物語。美しい調べが小説という形で昇華されたのだと思います。ミステリーではないクリスティーなんてと思いつつも物語に引き込まれてしまいました。2023/11/06
yumiha
50
メアリ・ウェストマコットで出版された本書は、もちろんミステリーではない。好みではないタイトル(原題Giant's Breadを手垢にまみれた訳にしてほしくなかった)と653ページの分厚さになかなか食指が動かなかったが、『リスタデール卿の謎』の安易な恋愛短編よりは、読み応えがあった。また、毅然としたナース・フランシス、素振りには見せないけれどヴァーノンを心底愛したジェーン、不器用だけど自分を貫いたジニーなど、私にとって魅力的な登場人物にも出会えた。2022/12/29
geshi
36
後に天才音楽家と称されるヴァーノンを軸としつつ、周囲の人々の心理描写もしっかりしていて、愛のテーマを追い求めるロマンス叙情小説。全てを厭わぬ愛も、穏やかに包まれる愛も、本音をさらけ出してしまう愛もあって、そんな愛の形の違いが登場人物を通してすれ違い・ぶつかり合う。言葉の裏側を思わせる会話がやはり巧み。誰もが愛を手に入れているはずなのに誰も幸せになれていない残酷さ。クリスティーの実人生も透けて見えてなかなか感慨深い。ドストエフスキーの名前が出てきて意外な同時代性にびっくりだった。2020/10/26
Tanaka9999
28
訳本は「クリスティー」名義だったので気が付かなったが、ミステリーではなかった。それで、この本がない処があったのか。しかし、意外と引き込まれた。幼馴染どうしの恋愛やすれ違いなどがスピーディに展開するが、ドロドロではない。音楽の才能とかが絡むからだろうか。なんか感想はうまく書けないが、面白かった。2020/01/23
花乃雪音
26
メアリ・ウェストマコット名義の恋愛小説。読んでいると本作の主役と思える人物がヴァーノン、ネル、ジェーンと変わっていった。その結果、ネルとジェーンというミューズによってヴァーノンの才能が開花する話だと思ったが、最初に戻り読みかえして原題『Giant's Bread』の意味する所がわかるとそれにとどまらないことが理解できた。2020/12/12