出版社内容情報
雪が降りつづくトルコの地方都市カルスに赴いた詩人Ka。そこで彼は、宗教や信念、民族をめぐる衝突に否応なく巻き込まれていく。
内容説明
十二年ぶりに故郷トルコに戻った詩人Kaは、少女の連続自殺について記事を書くために地方都市カルスへ旅することになる。憧れの美女イペキ、近く実施される市長選挙に立候補しているその元夫、カリスマ的な魅力を持つイスラム主義者“群青”、彼を崇拝する若い学生たち…雪降る街で出会うさまざまな人たちは、取材を進めるKaの心に波紋を広げていく。ノーベル文学賞受賞作家が、現代トルコにおける政治と信仰を描く傑作。
著者等紹介
パムク,オルハン[パムク,オルハン][Pamuk,Orhan]
1952年、イスタンブル生まれ。イスタンブル理工大学で建築を学んだ後、イスタンブル大学でジャーナリズムの学位を修得。その後、コロンビア大学客員研究員としてアメリカに滞在した。1982年発表のデビュー作『ジェヴデット氏と息子たち』(未訳)がトルコで最も権威のあるオルハン・ケマル小説賞を受賞。その後に発表した作品もトルコ、ヨーロッパの主要文学賞に輝き、世界的な名声を確立する。1998年発表の『わたしの名は赤』(ハヤカワ文庫)は世界の有力紙誌で激賞され、国際IMPACダブリン文学賞を受賞。2002年発表の『雪』も同様の高評価を受け、2006年にはノーベル文学賞を受賞した(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
NAO
85
1990年初頭。かつては旅行や商売の拠点として栄えたものの、往年の栄華も消え去り、貧困にあえぐアルメニア国境にほど近い地方都市カルス。この地に、かつて学生運動をしていたことからドイツに亡命していた詩人のKaが、雇われ記者としてやってきた。西洋化が進むカルスは、イスラム主義者、世俗主義が混在するために無法地帯のようになっている。何度もあらわれる雪の描写。じわじわと町を包み込んでいく重苦しい雪。全体の感想は、下巻で。2020/12/21
藤月はな(灯れ松明の火)
56
「新訳版の方が読みやすい」という感想を拝見して単行本の記憶と読み比べ。私には、文庫の方は読みやすいけど語りすぎており、単行本にある直訳じみているような文章によって想像できる「余白」を失くしている感がありました。展開をしっているだけにKaの言動が危なっかしくて仕方ないです。そしてKaのイペッキに惹かれて自分の夢に浮かれる場面は泣き笑いするしかないです。2014/10/24
活字の旅遊人
50
小説投稿サイトNOVELDAYS内で読友さんが紹介されていたトルコ人ノーベル文学賞作家の作品。歴史的、政治的背景を知っているとは到底言えない自分だが、非常に興味深く読んだ。ヨーロッパに近付きたい。ムスリムであり続けたい。各人にそれぞれのバランスで存在するはずの相反する思いの中で起こる出来事。ドキドキの連続だが、約400ページで数日しか経過していないところも凄い。仏教が入ってきた時の日本ってどうだったんだろう? 宗教で国を治めていないはずの現代日本ではここまでの問題にならないのだが、仏教伝来時はおそらく…2023/05/17
やいっち
50
感想は下巻に。余談だけ。ノーベル文学賞作家だけあって、さすがに読ませる。宗教や政治状況の複雑さと厳しさは、日本の多くの作家にはまず描けないものだろう。日本は政治的にはアメリカの影響下にあって、どっぷり泥沼の中に埋まり切っている。そこから打開しようとか、脱出しようとか、そんな気配は歪な報道ぶりの日本のマスコミには捉えようがないようだ。大国のエゴが露骨になる中、日本はどうサバイバルするのか、近い将来正念場を迎えると予感する。2019/08/17
長谷川透
34
パムクはトルコ人でありながら自国を相対化し外国人の眼差しを持って物語を書く。政教分離を政策として掲げ、その一環として学校でのスカーフ着用を禁じたことを端に物語は静かに揺り動く。貧しきカルスにおいてはトルコの近代化も外交も身近なことではない。目の前にある貧しさと折り合いをつけるには、神の存在を信じ現在の苦悩を神が与えし試練だと思い来世を馳せるしかないのだ。主人公Kaは中庸の立場でカルスの街を亡命先だった西洋での回想を交えながら彷徨う。西洋とイスラム、伝統と近代が静かに鬩ぎ合うテクストは毎度のこと見事である。2012/12/27