内容説明
赤ん坊でなくなっても母の乳を飲んでいた黒人の少年は、ミルクマンと渾名された。鳥のように空を飛ぶことは叶わぬと知っては絶望し、家族とさえ馴染めない内気な少年だった。だが、親友ギターの導きで、叔母で密造酒の売人パイロットの家を訪れたとき、彼は自らの家族をめぐる奇怪な物語を知り、そのルーツに興味を持つようになる―オバマ大統領が人生最高の書に挙げる、ノーベル賞作家の出世作。全米批評家協会賞受賞。
著者等紹介
モリスン,トニ[モリスン,トニ][Morrison,Toni]
1931年、オハイオ州生まれ。ハワード大学を卒業後、コーネル大学大学院で文学の修士号を取得。以降、大手出版社ランダムハウスで編集者として働きながら、小説の執筆を続け、1970年に『青い眼がほしい』(ハヤカワ文庫刊)でデビュー。1977年発表の『ソロモンの歌』で全米批評家協会賞、アメリカ芸術院賞受賞に輝いた。その後、『ビラヴド』(1988)でピュリッツァー賞を受賞。1993年には、ノーベル賞が授与された
金田眞澄[カネダマスミ]
1930年新潟県生まれ。早稲田大学名誉教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
361
黒人たちが強いられた辛酸と苦難の歴史を描くことに目的があったとすれば、リアリズム文学になったはずである。ところが、この小説には、表題となった「ソロモンの歌」をはじめ、いくつかの神話的、もしくは幻想的な要素が物語形成の重要な核となっている。主人公は一応はミルクマンだろうが、同時にパイロットもまたそうだとも言える。黒人たちが経験した現実だけが彼らの歴史だったのではなく、彼らが抱いた幻想や夢もまた忘れることのできない歴史なのだ。物語後半に描かれるミルクマンのアイデンティティの模索は、それを探る旅だったのだろう。2016/11/14
ケイ
134
『青い目が欲しい』と2冊読んで、トニ・モリソンが描くものは黒人文学ではなく、もっと普遍的なものだと感じる。彼らが置かれた状況は独特だけれど、その悲劇を訴え嘆くのではない。その中で起こる人間模様は、もっと深いもの。奥底に横たわる悲劇の前兆がそこかしこに漂っていて、本当に哀しいのに、受けとめて読んでしまうのはなぜだろう。最後にくる静かな衝撃。そう、全体を包む静けさがとても美しいのだなと、今、気付く。トニモリスンは、稀有な作家だと思う。2017/02/17
どんぐり
76
トニ・モリスン2冊目。父親はノット・ドクター・ストリートの大きな家に住む黒人で資産家、その妹パイロットは娘と孫娘の3人で密造酒つくり。父親にパイロットにその先祖がたどってきた場所へ、さらにはミルクマンをつけ狙うギターに、ミルクマンを一途に想うヘイガーが絡む物語。パイロットが岩穴で見たという金塊の話にミルクマンが自分の一族メイコン・デッドのルーツを探すところから、物語は一気に加速する。自分の出自を知ること。それは個人としてのアイデンティティであり、家族の歴史であり、奴隷として連れてこられたアフリカ人を探すこ2020/03/17
たま
65
第1部はメイコン・デッド(Dead)3世通称ミルクマン(1931年生)の成長を、家族や仲間、アフリカ系アメリカ人への差別(南部でのリンチ事件から公民権運動へ)と絡めて描く。第2部でミルクマンは父や叔母パイロット(Pilate)から聞いた父祖の地(ミシガンからペンシルヴェニア、ウェストヴァージニア)へと旅する。第1部は魅力的な人物がパイロットだけで冗長に感じたが、回収となる第2部は面白く、ミルクマンが自分たちの名前を肯定的に捉え直す場面はカタルシスがあった。ただラストは私には納得できかねるものだった。2023/02/02
NAO
61
「飛ぶ男」「病院で初めて生まれた黒人の子」「ミルクマンという名前」などどこか神話的な要素と、暴力的なまでの差別や愛憎を描いた部分が絶妙に絡まりあって不思議な世界観を作り上げている。人種差別、黒人同士の軋轢、家族の歴史。暗く重い歴史さえすでに神話のようで、それを紐解く凡庸でいながら特別な存在であるミルクマン。巧みな、圧倒的な物語の世界。2016/11/03
-
- 和書
- 1色刺繍と小さな雑貨