内容説明
ここは人々が一番大切な思いを綴った本だけを保管する珍しい図書館。住み込み館員の私は、もう三年も外に出ていない。そんな私がある夜やって来た完璧すぎる容姿に悩む美女と恋に落ちた。そして彼女の妊娠をきっかけに思わぬ遠出をするはめになる。歩くだけで羨望と嫉妬の視線を集める彼女は行く先々で騒動を起こしてゆく。ようやく旅を終えた私たちの前には新しい世界が開けていた…不器用な男女の風変わりな恋物語。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
147
邦題の「愛のゆくえ」は意味不明だが、原題の"The abortion"(人工中絶)は、いささかショッキングなタイトルだ。もっとも、こちらもわかったような、わからないようなのだが。ブローディガンは『西瓜糖の日々』以来2作目だが、同じ作家とは思えないくらいに趣きが違っている。出版は3年しか違わないのだが。1960年代の終わりから70年代の初めにかけてのアメリカは、特に若い世代において、その価値観が激変した時期にあたる。本書のエンディングがU.C.Berkeleyであるのも、当然そうしたことを強く示唆していた。2013/07/22
Willie the Wildcat
74
自費出版の目的は様々だが、図書館員の業務は24/7不変。持参し登録、保管。主人公がヴァイダに語り掛けた”誇り”が、自著に込めた作者の思いへの敬意。故に、ヴァイダの心に響く。無論ミルキーウェイは、絶大なる秘密兵器!「電話への第一歩」から始まり、瓦解のごとく物質主義にさらされる過程。価値観を問いかけるティファナの旅。是非の問題ではなく、ヒッピー文化への転換期。『あとがき』は非常に参考になる考察ですが、”敗北者”の件だけは違和感。1冊1冊、それこそ著者の誇りではないでしょうか。原題は意味深ですね。2019/02/04
市太郎
68
特にこう劇画的にとか、そういったものを求めてしまうと、これはそれほど、筋道が面白いものではない。しかし、ブローティガンの独特の雰囲気とユーモアの波にゆったりとたゆたえば、これは本当、ブローティガンの善い時の傑作なのだなと思う。どちらかと言えば、この人はストーリーで魅せるというよりも詩人側の芸術家というか、感性で書く作家だと思うので。考えてみればこれは、確かに引きこもりの理想かも知れない。ある日、完璧な肉体を持った美女が現れ、わたしを図書館の外の世界へ連れ出す。ここで重要なのは美女は完璧でなくてはなら2015/04/19
やきいも
68
人々が大切な思いを綴った本を保管する図書館。そこに勤務する「私」が本を持ち込んだ美女と恋におち、彼女を妊娠させる。堕胎手術をする為、2人は旅立つが...。「この世にくつろいでいない」(本書62ページより)2人がお互いをいたわりあい結び付くその風景が詩的な文章で綴られています。自然で気取らず、さりげない雰囲気の2人の結び付き方がうらやましい。ただストーリーに劇的な展開や変化はなく、最後まで淡々と続いていきます。読書に劇的なドラマや感動を求めるタイプの方はがっかりするかもしれません。私はまた読み返したいです。2015/03/07
syaori
65
本を読むためでない、様々な思いを抱える寂しい人が自分の書いた本を収めに来るためだけにある図書館。その図書館に本を収めに来てそのまま図書館員となった主人公。結局、彼は自分を柔らかく世界から隔絶してくれていた図書館を出て再び現実と向き合うことになりますが、生きることは未来への可能性を持つことであり、挫折や悩みも抱えること。彼の未来にも不安も希望もありますが、でも日々に疲れた時、どこかにあの優しい図書館があって自分を、誰かを待っていると思うだけで心が温まるよう。作者から優しい励ましをもらったように感じました。2018/11/06