内容説明
半年も入院したまま、面会謝絶で安否もわからない弟の様子を調べて。依頼人の女性は憔悴しきっていた。製薬会社でセールスマンとして働く弟が、会社の研究所で爆発事故にあい、以来、社の管理下にあるという。なぜセールス部門の者が研究所内の事故に?不審に思ったわたしは、ガードの堅い会社側に揺さぶりをかける―十数年ぶりに再会した実の娘とともに謎を追う知性派探偵サムスン。シリーズの人気を決定づけた傑作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
J・P・フリーマン
9
研究中の爆発事故で入院患者がなぜか七か月も面会謝絶となっている。患者の姉の依頼により、病院を管轄に収めている製薬会社を調査するサムスン。今回はサムスンの娘も登場して調査を手伝います。何か大きい陰謀があるとうのはわかるのですが、その計画があるときバチッと確定するのでなく、後半にいくにしたがって、徐々に「ああ、そうなんだ~」的にわかってくるので、劇中のサムスンの行動についていけない部分があって、なかなか物語に集中できませんでした。サムスンを動かす前にもうちょっと明確に明示してくれたら印象も違ったと思います。2021/07/27
円盤人
6
作者の代表作。製薬会社で起きた爆発事故で、何ヶ月も面会謝絶になった弟に会いたい、という依頼に、アルバート・サムスンが挑む。この探偵、貧乏だし腕っぷしは強くないし、分別にも欠ける。助手として働く娘がおり、一匹狼ですらない。そのかわり、彼は不器用なほどに愚直であり、一方でひねくれたユーモアセンスの持ち主である。この「平凡」だが、まぎれもないハードボイルド・ヒーローのひとりである彼の活躍が心地よい。最初は謎の全貌がまったく見えないのも◎。それにしても、ここまで費用を露骨に値切られる探偵は初めて見たかも(笑)。2018/12/07
しろ
6
☆7 入院中のセールスマンになぜか面会できない。そんな始まり方からたんたんと魅力的に展開する。意外な展開!とかはそんなにないのに引き込まれていく。キャラで見ても、その義姉と妻の印象がひっくり返るのがとても皮肉的でお面白いし、サムスンはやっぱり普通な探偵だが、思春期のようなひねくれたところと分別ある大人なところとの共存した言動がカッコいい。そしてついに(?)登場したサムスンの娘のサム。そのキャラ自体は王道だが、サムスンとの絡みが良い。あと、タイトルのダブルミーニングが小洒落ててまた良い余韻を残してた。2012/05/19
古川
4
アルバート・サムスンは腕っぷしも強くないし、女に気の利いた台詞を連発してモテモテなわけでもないし、暗い過去が背中に影を落としているわけでもないし、サイコガンどころか拳銃さえ持っていないが、どんな圧力がかかろうと自分の信念と矜持を貫く、この一点だけで、この小説は間違いなくハードボイルドだ。むしろ、秩序とコンクリートがひしめく現代社会でハードボイルドをやっていくためには、喧嘩や銃の腕を磨くよりも、サムスンのようにいちいちメモを取ったり帳簿に強かったりしなければならないということなのかもしれない。2015/05/07
ヨッシー
4
なんてこった、傑作じゃないですか。製薬会社に隠された陰謀はしっかり作り込まれていて面白いし、サムスンの一人称には爆笑しっぱなしでむちゃくちゃ楽しいし、最後のドンパチ(的な何か)も熱いし、ラストのちょっとしたどんでん返しも驚けるし、読後タイトルのかっこよさが良い余韻だし。この楽しさの大きな一因は、明らかにサムスンの語りでしょう。とにっかくユーモラス。ウィットに富んだ会話の連発です。そして一気に読ませ、最後の行が……もうすんばらしく、読み終わってニヤッとさせる感じが実にスタイリッシュ。うぅむ、上手いなぁ。2012/11/13