内容説明
酔いどれの私立探偵スルーはカリフォルニア州の酒場で、捜索を依頼されたアル中作家トラハーンを見つけた。が、トラハーンは怪我のため入院することになった。足止めをくったスルーは、そこで、酒場のマダムからの別の依頼を引き受けた。依頼は、10年前に姿を消したきり行方の知れない娘を捜してほしいというものだった。病院を抜け出してきたトラハーンとともに娘の足跡をたどり始めたスルーの前に、やがて、女優志望だった娘の10年間の哀しい軌跡が浮かびあがってきた…。さまざまな傷を負った心を詩情豊かに描く現代ハードボイルドの傑作。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
眠る山猫屋
55
思ってたより、良い奴だった主人公スルー。放浪癖ある詩人を探して西部を巡り、酔いどれ詩人を何とか見つけたが、意気投合しちゃって酒場のマダムの失踪した娘を探す旅に。酔っぱらい二人組(+犬一匹)の珍道中はやがて、消えた娘ベティの悲しい過去を辿る旅に・・・。詩人の個性的な妻と美しい元妻も絡んで、仕組まれた事件に突き進むスルーたち。スルーはハードボイルドというには感傷的に過ぎて、ベティの過去に関わり過ぎていく。それはまだ見ぬ(そして恐らくは生きていない)ベティへの恋情にも似ていて。たどり着いた結末は哀し過ぎた。2021/05/18
maja
18
作家トラハーンを西部の酒場中を巡って探すC.W。見つけた酒場で、女主人に失踪した娘の行方捜しを頼まれて作家とともに娘の行方を辿る旅は、少女から娘となる彼女に起きた無残な転落の道を露わにしていきつつ、どこか得がたいような時間を共にする。ではこのとき作家の飲む酒は同じ味ではなかったのか。それぞれの胸中を漂いながら境界線なく浮遊するような作家とのベティ・スー探しの旅が忘れがたい。再読。 2021/04/21
ふみふみ
12
再読。チャンドラーの正統な後継者であったクラムリーの70年代版「長いお別れ」と呼ぶべき作品です。チャンドラーの詩情、感傷をより増幅し(心象風景も出現)、登場人物は端役に到るまで個性豊かで生き生きと描かれ、物語はまるでロードムービーのよう。主人公が探偵の私小説というか純文学の世界に近く、ハードボイルドの掟はガン無視し、主人公と他登場人物が一線を画すことなく愛憎絡まりまくります。そして本書のテーマは「愛と許容」、ドンパチの果てにかなり切ない読後感が残ります。2020/02/19
Bo-he-mian
11
20ウン年ぶりに読んだクラムリーは、旧友との再会のような…懐かしいけど、こいつ、いつも自分の心の中にいたんだなぁと気付く、そんな味わいがあった。酔いどれ詩人のような探偵。自分が連れ戻さないといけない相手と呑んだくれて、一緒に旅を始めてしまう(笑)。多くのハードボイルド小説のような観察者でなく、どっぷりと嵌り込んでいく破滅型だ。この生き方に自分はどうしようもなく共感してしまうのである。クラムリーの小説は、人生の敗残者たちへの哀歌なのだ。乱痴気騒ぎと女が好きな、寂しい目をした酔いどれたちに、乾杯。2017/12/02
再び読書
7
酔いどれ犬「ファイアボール・ロバーツ」が印象的なハードボイルド。やはりハードボイルドを男の心を揺さぶる。