内容説明
看護婦養成所ナイチンゲール・ハウスで、胃に栄養剤を送りこむ実習訓練中、患者役の看護学生が突然苦しみだし、息絶えた。数日後今度は別の学生が毒入りウイスキーを飲んで変死を遂げた。捜査を開始したダルグリッシュ警視は、所内の複雑な人間関係の襞に分けいっていく…。白衣の天使の殿堂に渦巻く醜悪な愛憎関係を重厚な筆致で描き出し、英国推理作家協会賞シルヴァー・ダガー賞を受賞したミステリの新女王の代表傑作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
セウテス
100
ダルグリッシュ警視シリーズ第4弾〔再読〕。作者が看護婦をしていた事もあり、病院内の場景に強い現実感ある作品。看護婦養成所で医療実習中、患者役の看護学生が死亡する。数日後、別の学生が毒入りのウイスキーを飲み、翌朝死体で発見される。捜査を担当したダルグリッシュは、白衣の園の複雑な人間関係に殺人の謎を探し求める。病院という閉鎖的で女性特有の空間と細やかな人物の心理描写は、まるで純文学を読んでいる様だ。だが前半から張り巡らされている伏線が、終盤一気に結びつき意外な真実を明らかにする様は、これぞミステリという作品。2020/01/11
キムチ
45
2件の看護師殺人事件が相次いだ・・警視ダルグリッシュの静かに重い解明が始まる・・ゆっくり姿を見せ始める苦しい過去。解説で権田氏が重苦しすぎるジェイムズ作品と言っている★が私には凄みすらある面白さ。やがて姿を見せる第3の殺人の真相~唖然とさせられる。ヒトラ―政権時の独の精神病院で多くの殺人が行われた。医師・看護婦長は有罪に、薬剤師と女は其々の生地へ 口を拭って新たな人生を歩む。歪んだ綱が絡まると真実を守る為に命が消えた「災いの家、50年前に取り壊されるべき、看護婦養成所には相応しくない」との呟きが全てを語る2021/11/29
星落秋風五丈原
33
「最初の殺人があった朝、総看護会付属看護婦養成所の視学官、ミス・ミュリエル・ビールは、六時をまわってまもなく目をさまし、身じろぎした。」冒頭の文で、殺人事件は一度ではないこと、殺人現場となる場所まで明かしている。物語の最後もまた同じ女性で締めくくられているため、重要人物のように思われるが、彼女はあくまで傍観者のポジションだ。近代に向かうイギリスに場違いな建物という取り合わせは『原罪』と共通。 看護師として働いたことのあるジェイムズが、よく知っている世界を舞台に据えたミステリ。2021/11/15
のざきち
19
1971年CWAシルバーダガー賞受賞作。この翌年に「女には向かない職業」が発刊、以後様々な傑作が世に送り出された事を鑑みるとジェイムズの転換点となった作品かも。看護婦養成所という閉鎖的な空間で繰り広げられる殺人と愛憎劇。女史の十八番である重厚な人間関係の描写の合間にさりげなく張り巡らされた伏線、そして驚きの真相。ダルグリッシュ警視シリーズはまだ積読本があるので、これからの楽しみにしておきます。2020/02/02
はもやん
14
ダルグリッシュ警視はシリーズを重ねるごとにシュッとしてる度合いが増してきますね。今回のアシスタント的存在、巡査部長のマスタースンはマッチョ系の男前(といえなくもないみたいな微妙な表現でしたが)で、ADと好対称。今回同性愛のモチーフが全編に散りばめられていて、マッチョ代表みたいなマスタースンでさえ、参考人のひとりである女性と関係を持ってしまうまさにその最中にADのことを思い出す、というのが印象的でした。後半3分の1で物語が急ピッチに進むといういつものジェイムズ節。2020/09/02