内容説明
ゴルフコースとベッド以外では発揮できる才能もなく、職を転々としていたオスナードは、名門母校の斡旋で諜報員になる。初任務でパナマに派遣された彼は、情報屋として雇った仕立屋からパナマ政府を覆す動きがあることを知る。パナマ運河が欲しい英国は、諜報活動の資金として、密かに大量の金の延べ棒を運び込む。オスナードはその金を反政府組織に渡そうとするが、仕立屋はなぜか組織の人間に直接会わせようとせず…。
著者等紹介
ル・カレ,ジョン[ルカレ,ジョン] [le Carr´e,John]
1931年イギリスのドーセット州生まれ。オックスフォード大学卒業後、イートン校で教鞭をとる。東西冷戦期にイギリスの諜報機関MI5に入ったが、MI6に転属し、旧西ドイツのボンにイギリス大使館の二等書記官として赴任、その後ハンブルクの総領事館に勤務した。1961年に『死者にかかってきた電話』で小説家としてデビュー。2020年12月死去
田口俊樹[タグチトシキ]
1950年生、早稲田大学文学部卒、英米文学翻訳家(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
k5
51
「それだけの歳月、世界情勢を私のような眼で見てきたら、このあとやれることはもうふたつしかない。すなわち、笑うか自殺するか。本書の主人公はその両方を巧みにやってのけているが」あとがきに入っている、ル・カレのインタビューから。もう一回読もう。2025/02/19
k5
42
二周目。上巻の解像度は一気に上がったのに、下巻はまだ難しい。さすがル・カレ。。。下巻冒頭でオスナード視点になってから、やっぱりペンデルに落ち着くところが、本当はアクロバチックなのに落ち着いて見えるのが難しいところなのだよな。もう一周読みたい。2025/03/31
春風
12
主人公の周辺人物の視点が増える下巻。既読のル・カレ作品とは趣が異なり、読後感もまた違う。もし、この作品のあらすじをネタバレを厭わず誰かに伝えたとすれば、受け手は十中八九はかなり悲惨な結末の悲劇であると受け取るだろう。しかしながら、本作は悲劇を戯画的な喜劇で描ききっており、小説そのものが持つポテンシャルをひしひしと感じることができた。本作のテーマや結末は、昨今の情勢と共鳴してきていて、いまこそ新たな価値を獲得し得る作品だと思う。劇場版もあるとのことなので、サブスクにラインナップされたら観てみようか。2024/09/03
西村章
4
ある登場人物が虚飾にみちた人物像を自ら剥ぎ取って血を流すように半生をあからさまにしてゆくさまは、たしかに『パーフェクト・スパイ』のマグナス・ピムを髣髴させるような鬼気迫る迫力がある。他の作家の文章なら辟易するだろう豊穣な比喩を用いながら、どことどう繋がるのか判然としないエピソードの集積が、ある場面(今回の場合はゴルフ場の雨宿り場面かな)をきっかけにそれまでの細部がうねるように絡み合い全体像がダイナミックにうごめきはじめる構成は、いつもながらおみごとのひとこと。だからこそ、ラストのカタストロフも哀切極まる。2024/09/17