内容説明
自然を愛するあまり違法な狩猟者を射殺し、獄中生活を余儀なくされた男ダン・マーフィ。彼が住みなれたアラスカへ舞い戻ってきたのは、事件から5年後の冬のことだった。目的はアイディタロット1800キロ犬橇レース。毎年、数十組の参加者が争う危険きわまりないレースだ。ダンはあえて死を賭けた苛酷なレースに挑むことによって、もう一度生きる証を立てようとしていたのだ。激しい雪嵐、ライバルの妨害、飢え―数々の闘いが待ちうける雪原へ、彼は犬たちを駆る!仏暗黒小説の名手が厳寒の地アラスカを舞台に謳いあげる鮮烈な男のドラマ!
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
新地学@児童書病発動中
98
昔から動物が活躍する小説が好きだ。この『犬橇』でも主人公ダンの橇を引く犬たちの姿に胸が熱くなった。健気でいじらしい。それだけではなく、野性を見せつける場面もある。犬達が町の中の飼い犬を食い殺してしまう場面は残酷だが、過酷な環境で生き延びるしかない犬達の生態を浮き彫りにしている。プロットは刑務所帰りの男が犬橇レースに挑戦すると言うもの。妨害や嫌がらせを受けてもダンは決して屈しない。ダンと犬達は強い絆で結ばれており、犬達のおかげでダンが危機を脱することもある。自己の限界に臨む孤独な男の肖像が心に刻まれる傑作。2016/11/26
NICK6
5
中編並みの頁数だが、後半レースの緊迫の連続には想像以上の刺激を受ける。自然の苛酷は極寒悪寒。底なしの疲労と辛苦。次から次へと死と絶望が順番待ち。待ったなしのトラブルと嫌がらせ、猛威脅威の三重苦四重苦。一番冴えまくる筆致は、共にする犬達の容赦ない牙と血。そして衝突と非コントロール。再起をかけた男の誇りが、凶暴な獣性本能と激烈交差。レース後半は美しくドラマチックに展開、滂沱と共に何度も感情が乱れた。先住民族との信頼、心通った子供の勇気、友との友情まで豊かに描写、後半の救済と祈りへ転位していく劇的展開は見事 2022/09/04