出版社内容情報
3か月連続刊行の作家別傑作選第3弾。科学の暗部を暴き出す、文學界初出「冬至草」をはじめ文芸界が絶賛する伝説的作家の傑作集
内容説明
1926年の北海道、ある医師の診療所に運ばれてきた女は特異な症状を示していた…圧巻の幻想SF「雪女」、人の血液を養分とする異様な植物をめぐって科学という営為の光と影を描いた「冬至草」のほか、論文捏造事件を予見した「アブサルティに関する評伝」、架空生物ハネネズミを横書き論文形式で語り大江健三郎・筒井康隆に絶賛された芥川賞候補作など、伝説的作家による全8篇を集成!伴名練渾身の解説40p超を併録。
目次
希望ホヤ
冬至草
王様はどのようにして不幸になっていったのか?
アブサルティに関する評伝
或る一日
ALICE
雪女
平成3年5月2日、後天性免疫不全症候群にて急逝された明寺伸彦博士、並びに、
著者等紹介
石黒達昌[イシグロタツアキ]
作家、医師。1961年北海道生まれ。東京大学医学部卒業。1989年、「最終上映」で第8回海燕新人文学賞を受賞してデビュー。純文学誌を中心に数多くの中短篇を発表する。「平成3年5月2日、後天性免疫不全症候群にて急逝された明寺伸彦博士、並びに、」「真夜中の方へ」「目をとじるまでの短かい間」で3度の芥川龍之介賞候補となる(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
buchipanda3
107
短篇選集。この感じをどう表現したらいいだろうかと思ったら、編者が解説で「最も冷徹で、最も切実な生命の物語」と題しており、まさにそれだと。淡々と事実を羅列するかのような文章ゆえに却って妙にリアルさが醸し出され、これはひょっとしたらどこかで実際にあった話ではと錯覚してしまいそうになる。その現実と虚構の絶妙な曖昧さに思考の感覚が酔い狂わされ、物語に込められた科学と人類の関係に大いにざわつかされた。小説という虚構がもたらす可能性を改めて感じる。そして日常も既にフィクションの領域という著者の言葉にドキっと。2021/08/22
ひさか
44
SFマガジン02年3月号希望ホヤ、5月号冬至草、小説トリッパー96年夏季号王様はどのようにして不幸になっていったのか?、すばる01年11月号アブサルティに関する評伝、文學界99年3月号或る一日、海燕95年6月号ALICE、角川春樹事務所00年人喰い病:雪女、海燕93年8月号平成3年5月2日,後天性免疫不全症候群にて急逝された明寺伸彦博士,並びに,、の5つの作品を21年8月ハヤカワJA文庫から刊行。伴名練さん編によるシリーズ3作目にて最終巻。希望ホヤ、ハネネズミの話が面白い。伴名さんの解説が読応えあります。2021/11/03
geshi
35
SF設定を出発点にリアリティーある科学書のような筆致によってそれが実在するのではと思われてくる理性と幻想の交差の不思議な味わい。『冬至草』冬至草を原爆と重ねていて、人間の血を吸って成長する姿に魅入られてしまう科学者の異様が映る。『雪女』怪談の医学的方向からの語り直し。そこに浮かび上がるのは人間の情念であるテーマの着地。『平成3年~』ハネネズミの実在を信じさせるために論文形式にして写真やデータで下支えする手法の面白さ。人間の傲慢と無力をまざまざと見せつける。2021/09/09
あおでん@やさどく管理人
31
冒頭の「希望ホヤ」から、解説のタイトルである「最も冷徹で、最も切実な生命の物語」という言葉がしっくりはまる。一番好きだったのは「雪女」。昔から雪女というモチーフには何か心惹かれるものがあり、今作は雪女に「低体温」という要素が組み合わさり、SFとして作り上げられていて面白かった。2023/12/13
シキモリ
30
主に自然科学、生物化学的なテーマをルポタージュ調の文体を以て俯瞰的な視点からノンフィクション風に淡々と綴る作品集。人の血液を養分とする植物の生態を描いた「冬至草」と妖怪譚を特異体質という観点から描く「雪女」の二作が表題作で、人智を超えた種のメカニズムを研究者の執着質な探究心と共に紐解いていく。併録作「希望ホヤ」と「平成3年5月2日〜」もまた然り、人間の傲慢さによって滅び行く種を通じて、自滅という形での人類滅亡を暗喩するという冷徹さ。人間の驕りと科学の限界、生命の摂理を前にして人間の力は如何に無力なのかと。2021/09/12
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