出版社内容情報
井ノ頭恩賜公園の管理人として、チャイコフスキーとともに日常を送る男は、ある日、少年の死体と遭遇する。初期長篇、復刊第2弾
内容説明
富にも人望にも性交能力にも恵まれず、チャイコフスキーを友とし鬱蒼たる公園の管理人として生きる、誰からも羨まれることなき50歳の“わたし”は、ロッカーからまろび出てきた見知らぬ遺体の投棄に失敗し、その冷凍保存に踏み出す。解き放たれた心的外傷が次々に姿を成して管理所を訪れ、恥辱の記憶は踊り、煩悩の連鎖は矮小な舞台を無限の煌めきへと砕き尽くす。著者が20世紀に遺した、文学史上有数に奇妙で、物悲しく、諧謔に満ちた理想宮。
著者等紹介
津原泰水[ツハラヤスミ]
1964年広島県生まれ。青山学院大学卒。1989年に少女小説家“津原やすみ”としてデビュー。1997年、“津原泰水”名義の長篇ホラーである『妖都』(ハヤカワ文庫JA)を発表。2011年の短篇集『11』が第2回Twitter文学賞を受賞、収録作の「五色の舟」はSFマガジン「2014オールタイム・ベストSF」国内短篇部門第1位、また同作は近藤ようこにより漫画化され、第18回文化庁メディア芸術祭・マンガ部門大賞を受賞した(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
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読書という航海の本棚
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
踊る猫
35
眼前の現実は1つだ。それをぼくは腑分けして「男/女」「生者/死者」「現実/幻想」「事実/虚構」というように分類している。ならばこの異様なテンションに満ちた作品は、そうした分類された・秩序正しい世界に慣れきったぼくの「寝首を掻く」ものではないか。実際にこの作品を読み進めると、ある箇所から常識/安寧を揺さぶるできごとが矢継ぎ早に起こり始めこちらをたじろがせる。批評的な読解をほどこせるほどぼくは賢くないが、著者はそうした「揺さぶり」を通して何もかもが溶け合った、「1つ」だった世界の実の姿を見せんとするかのようだ2024/01/22
hanchyan@つまりはそういうことだ
34
「彼女とふたりきり。気持ちが昂ぶって腰なんか振っちゃって、興奮して○○出ちゃう!あ~気持ちイイ♪もしかして生まれちゃうかも…?」さて問題です。○○って何~んだ? 答え=「歌声」。生まれちゃうのは「素敵なハーモニー」ね。とまあそうやって考えると、歌声(≒芸術)も排泄物や体液も同様に”肉体から出でたるもの”ではあるわけで。不能者である「私」の語りに滲む哀感は、その辺にありそうだ。なので、読んでる間中ずっと「8と1/2」を思い浮かべてたぞ。なんかこうヌーヴェル・ヴァーグぽい雰囲気。あと「未来世紀ブラジル」とか↓2020/02/23
hanchyan@つまりはそういうことだ
29
♪な〜に見てるのさ〜 チンチンポンポン・チンチンポンポン・チンチンポン・なーんにも♪というわけで。序盤で「開かずのロッカーから見知らぬ少年の屍体が出てきた」ていう『魅力的な謎』が提示されるのだが、それでもとにかくただひたすら閉じよう閉じようとする『わたし』のはなし。けれども彼にもまた、なりなりてなり余れる処一処あり、そこから『わたし』の世界は瓦解してゆく。思弁・思弁・諧謔・思弁、衒学・思弁・ギャグ・思弁。とまあそんな感じ(笑)。奇跡的な幻想純文学。奇書です。あるいは「キショっ!」か?(笑)とにかく傑作。2022/06/23
冬見
14
よくぞ耐え切った。本当に途中、吐くかと思った。血の気が引いて頭がぐらぐらした。復刊された3作は刊行順ではなく『妖都』『少年トレチア』『ペニス』の順で読んだのだけど、偶然とは言えこの順番で正解だった。本作を読んだら恐ろしくて他の作品が読めなかっただろう。個人的な好みとしては『少年トレチア』がダントツで、次いで『妖都』『ペニス』かな。本作はかなりきつかった。物語としてとかではなく描写におけるグロ耐性的な意味で。想像できてしまう痛みは大の苦手で、終盤は吐き気との戦い。物語の構造は好きだけどたぶん読み返せない本。2021/02/20
maimai
14
約20年ぶりの再読。単行本で読んだときにはその超絶技巧に圧倒された。一方で、短編ならともかく長編で、こんな1行1行身を削るような書き方をして、この作家は大丈夫なのだろうかと思ったのも事実。作品の圧の高さに長時間接していることができず、読む側も相当の体力を要求されたという記憶があるのだが、今回読み返してみて思ったのは、こんなにエキサイトする小説だったっけ?ということ。巻を措く能わず。凄いじゃないか、津原泰水。凄い作家だとは思っていたが、こんなに凄いとは。大傑作。2020/02/21
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