出版社内容情報
雨野透の人格が転写され宇宙を旅する惑星探査機。彼の中の、地球に残した元恋人みずはと過ごした記憶が、宇宙の危機を招来する。
内容説明
無人宇宙探査機の人工知能には、科学者・雨野透の人格が転写されていた。夢とも記憶ともつかぬ透の意識に繰り返し現われるのは、地球に残した恋人みずはの姿。法事で帰省する透を責めるみずは、就活の失敗を正当化しようとするみずは、リバウンドを繰り返すみずは…無益で切実な回想とともに悠久の銀河を彷徨う透がみずはから逃れるため取った選択とは?選考委員満場一致の、第1回ハヤカワSFコンテスト大賞受賞作。
著者等紹介
六冬和生[ムトウカズキ]
1970年5月、長野県岡谷市生まれ。信州大学経済学部卒。海外SFを長年愛読し、会社勤めのかたわら小説を執筆。『みずは無間』が第1回ハヤカワSFコンテスト大賞受賞作となり、ハヤカワSFシリーズJコレクションより単行本化されデビュー(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
おかむー
75
表紙イラストのイメージにはそぐわないのだけれど、かといってまるでつまらなくはないところがミソですね。『よくできました』。主人公は宇宙探査船に搭載された科学者・雨野透の人格を転写したAIであり、作中生身の人間が一切登場しない(回想は除く)ところがある意味斬新ではある。悠久の旅のなか進化し続けるAIはしかし人間であった頃の透の恋人・みずはの記憶から逃れえず、その行動はやがて宇宙そのものに影響を及ぼす。壮大なSFのようでいてセカイ系なのかな。読み進めるのに量子論の基礎ぐらいは頭にいれておいたほうがよいですよ。2015/11/26
もち
23
「人ひとりぶんの欲望をあんまり舐めないほうがいいぜ」◆宇宙を漂う探査機のAIには、青年の人格が転写されていた。暇潰しのため、装備の改造や自己の複製、知性体の育成に励むものの、恋人の記憶だけは振り払えない。常に飢え、渇いていた、みずはの記憶――■生々しいSFだ。舞台は遥かな未来のそれなのに。何万光年先まで行っても、追い掛けてくるのは普遍的な屈託と切望。爆発的な思いは、宇宙に何をもたらすのか。日常が空想を喰い破る瞬間に、総毛立つ。2017/07/09
かとめくん
23
無人宇宙探査機を制御する人工知能に人格転写されているという設定はよくあるが、そこから先がすごい。自分のバージョンアップから始まって人工知能作り、自身のコピーによる分化分散、それらが色々な形で進化し、邂逅し、融合し、などなど。そんな中、転写元の人格「雨野透」にとりついて離れないのは恋人みずはの思い出だった…というと、ロマンチックな話なのかと思いきや、強すぎる思いが全てを飲み込むことになるとは。人への思いの本質とは何かを問われる話でした。2016/06/29
ほぼひつじ
19
さすがハヤカワSFコンテスト受賞作という感じ、むずい。読むのはしんどいが、凄さは分かる。意味は分かるが、想像できない。これを描ける著者の想像力に驚きです。AIに転写された青年の意識は、巨大なスケールの時空間を漂いながら、ただ一人の飢えと渇きの記憶に追い込まれます。ハードSFと日常が同居する面白さと、広大な空間と持て余す時間が有っても逃れられない罪悪感が印象に残る。飢餓と寄り添うみずは、それに孤独のなかで苛まれる雨野を見ていると、結構辛い。確実に読む人を選ぶ小説ですが、こんなのも時々はありかも、と思います。2015/12/22
ぎん
19
飢え、渇き。それは人が持つ行動原理そのものなのかも知れない。探査機の仮想人格となった主人公雨野透。その記憶の中で渇望を続ける恋人みずは。旅の途中、様々な理由で自身のコピーを作成する事になる透。その後宇宙に漂流した数々の透達が再びオリジナルと邂逅することに。果てしない宇宙の旅の中で、肉体を持たず個としての存在が希薄に成り果てながらも、万物の渇きは収まらず、止まる事を知らず膨張を続ける様はまさに宇宙の起源であり、ならばこの宇宙の持つ渇望の先にあるのは何なのか。普遍で陳腐な人間達の、壮大で壮絶な宇宙の物語。2015/12/08