出版社内容情報
絶版本の翻訳から生じた恐るべき混乱とは?爆笑、幻惑、戦慄溢れる幻想ミステリ短篇集
内容説明
棘のある舌で少女を舐め苛む怪異な男爵の物語…?日本の稀覯本『猫舌男爵』の翻訳に取り組む外国人翻訳家ヤン。だが、言葉と文化のギャップは誤解と憶測を呼び、ヤンと本の関係者たちを思いがけない運命へ導く。爆笑必至の表題作他、死期が近づくと水槽に入る奇妙な世界の死生観と孤独を描く「水葬楽」、女性画家の生涯を死亡時点から遡ることで驚愕の真実が明かされる「睡蓮」など、小説の無限の可能性を示す奇談集。
著者等紹介
皆川博子[ミナガワヒロコ]
1930年旧朝鮮京城市生まれ。東京女子大学英文科中退。73年に「アルカディアの夏」で第20回小説現代新人賞を受賞し、その後は、ミステリ、幻想小説、歴史小説、時代小説を主に創作を続ける。『壁 旅芝居殺人事件』で第38回日本推理作家協会賞を、時代小説『恋紅』で第95回直木賞を、幻想小説集『薔薇忌』で第3回柴田錬三郎賞を、歴史ミステリ『死の泉』(早川書房)で、1997年の「週刊文春ミステリーベスト10」の第1位に選ばれ、第32回吉川英治文学賞を受賞した(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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幻想文学好きの本棚
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Hideto-S@仮想書店 月舟書房
88
蠱惑的な味わいの短篇集。超高級なキャビアショコラを食べるように一篇ずつ咀嚼した。一度にたくさんは食べられない。毎日食べるのはキツい。でも、独特の食感がいつまでも口の中に残る。そんな物語。表題作は手紙形式のスラップスティックコメディ。古本屋で見つけた日本の小説をポーランド人の学生が周囲の人間を巻き込みながら翻訳する話。『水葬楽』は〈喪失〉を幻想的に描いたディストピア小説。一人の女性画家の哀しい生涯を描いた『睡蓮』は、時系列を逆にする事でミステリーに仕上がっている。他に『オムレツ少年の儀式』『太陽馬』を収録。2015/01/16
Rin
66
こんな世界を創り上げることができる発想力、想像力が凄い。どこか危うさと破滅の匂いを感じる世界。「猫舌男爵」現実にあるかも、と思えるユーモラスが盛り込まれていて、クスリとさせられる。「水葬楽」は死を迎えるにあたって、そして死に辿りついた先にまで踏み込んでいて圧倒させられた。他の作品も現実と少しの幻想が織り交ぜられているのがいい。「睡蓮」「太陽馬」は今の私では、なかなか入り込めずに、言葉をなぞってしまうだけになってしまった部分もあったので、また時間をおいてチャレンジしたいです。皆川作品は追いかけていきます。2016/08/16
shizuka
65
荘厳な音楽が奏でられ、厳粛で神聖な雰囲気が漂う物語集。『睡蓮』はある女性画家の生涯が死から幼少時代へと逆流し語られている。概ね書簡や記録のやりとりだが、群衆が大多数の意見にいかに流れ易いかがよく分かる。彼女はあの男に抹消されたと言っても過言ではない。死んでからの評価なんて無だ。『太陽馬』は物々しい余韻が残る。私は幸運を信じる。さて『猫舌男爵』これは実に面白い。訳者ヤンくんは情熱的で破天荒。周りの人々もなんだかんだ自分勝手。まわりまわって幸せを運ぶ『猫舌男爵』だけれど、その内容を知る術はなし。気になるって!2016/12/17
森オサム
56
読むのにいつも苦労する皆川作品ですが、本作も例にもれず読了後グッタリ。スラスラとは行かず、行きつ戻りつしながら読み進めるのですが、どの話も非常に奥深く素晴らしかった。「死」や「運命」、そして「戦争」みたいな物が底流に有る話が多く、心楽しく読める物では無いが、どんより曇ったヨーロッパの物悲しい雰囲気が良かった。そんな中異色の「猫舌男爵」はスラップスティックで楽しめ、山田風太郎は是非読まんといかん、と思わされた(笑)。ただ、一遍選べば「睡蓮」がおススメ。2021/12/29
白湯
54
独特な世界観に最初から最期まで翻弄され、今は既に読み終わっているのに読了できていないような不思議な感覚です。猫舌男爵にヤマダ・フタロ!意外な登場人物に笑ってしまいました。 皆川さん2冊目でしたが、どのお話も劇薬を含むけれど分かっていながら癖になる味、って感じですね。2015/03/02