内容説明
『私が生んだのは姉だった』―小説家の解良は、万能著述支援用マシン“ワーカム”から、言語空間を揺るがす文章の支援を拒否される。友人の古屋は、解良の文章が世界を崩壊させる危険性を指摘するが―「綺文」ほか、地上800階の階層社会で太古の“小説”を夢見る家族の物語「没文」、個人が所有するポットで言葉を育てる世界を描いた「栽培文」など9篇の連作集にして、神林言語SFの極北。第16回日本SF大賞受賞作。
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乱読太郎の積んでる本棚
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
74
その内に実現しそうな「ワーカム」を設定し、言語とは何か、思考とは、そして言語と人間の関係を問う作品。神林長平は、あたかも小説で試行するチョムスキーだ。また、ここではいくつもの文体上の実験も試みているが、それもSFの可能性を新たに拓いていくことになるだろう。言葉を用いて、言葉の本質を探る―その自己撞着を熟知しながらの試み。2012/04/11
GaGa
52
読み始めは、なんか筒井康隆がやりそうなことをやりだしたなと思った(笑)言葉をキーワードにした連作短編集だが、中でも「栽培文」は傑作だろう。これはこの連作のカテゴリーを外れてもよく出来た短編だと思うが、この連作集でこの位置にある事でよりいきている。欲を言えばこの作品の後、「戯文」の前にもう一作あると全編通してすっきりした気もするが…ただ神林長平作品では私の中では1位となった作品。2012/11/07
つねじろう
50
ねねみるさんの本棚から。本来人間の精神と一体と思われていた言葉を操ってるのは誰かというややこしいお話。正しい使い方若くは矛盾しない使い方という概念により統制され出した時、それは次第にイデオロギーの違いを生じさせ、結果静かな闘争を産み文字との訣別にも至る。作者は怠惰に且つ考えなく言葉を垂れ流してる我々のアイデンティティを九つのストーリーで手を替え品を替えて崩壊させ不安に落とし込む。でも「るり子の匂い」は是非読んでみたい。言葉不足の身としては「言葉の森」も魅力的。で、誰と戦い誰が勝ったんだろ?2014/04/02
そふぃあ
41
「言葉」と向き合い続けてきた神林長平氏による、九篇からなる連作言語SF。万能著述支援用マシン「ワーカム」に『私を生んだのは姉だった』という矛盾をはらんだ文を認めさせた初篇から、全てが始まる。言葉はワーカムを伝って感染し、やがては世界そのものを変えてしまう。言葉と作家に興味がある方は読んで損はないと思います。既存の言語体系が崩壊した後の世界を描いた「栽培文」が、温かみがあり個人的に好みでした。2015/12/17
kana
32
痺れるような巧さ!たまらない。“言葉”を様々な角度からとらえ、“言葉”が進化しすぎた世界の人々を描いた短篇集。1990年代の作品とは思えないほど、今なお新鮮で、こういうSFがあるんだなぁと、新しい世界観に脱帽です。言葉をポットで育てる「栽培文」、ワーカムで父と会話しながら、だんだんと言葉に冒され、現実の境がわからなくなる「戯文」などどれも甲乙つけがたく面白いです。円城塔が解説をかいており、彼の「これはペンです」などの著作は、神林氏の影響を大きく受けているんだということがわかったのも良き収穫。日本SF大賞。2012/07/27
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- 和書
- 知性は人間力