内容説明
東京で生活する美しいがごく普通の女性が名もなき人々を標的に狙撃を繰り返す「狙撃者がいる」、アメリカの食堂で働く少年を通し銃を射つ崇高さを描いた「心をこめてカボチャ畑にすわる」、体験主義の作家が夫の鍵から推理を重ねる「彼女のリアリズムが輝く」他、日常に突如表出する不条理な暴力と謎を鮮烈に捉えた全8篇を収録。スタイリッシュでクール、独創性に満ちた片岡ハードボイルドの傑作を精選。
著者等紹介
片岡義男[カタオカヨシオ]
1940年東京生まれ。早稲田大学法学部卒。1974年『白い波の荒野へ』で小説家デビュー。エッセイ、コラム、翻訳、評論、写真など多分野で活躍
池上冬樹[イケガミフユキ]
1955年山形県生まれ。立教大学卒。文芸評論家(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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くさてる
22
ハードボイルド短編集。読んでいて「なぜ死ぬ」「なぜ殺す」とつぶやいてしまったくらいに、命を奪う行為がクールで空虚に繰り返される。若干、ミソジニーすら感じるけど、そこは時代というかジャンルのせいかも。けれど、無差別狙撃を繰り返す女性を描いた「狙撃者がいる」が圧巻で、ちょっと考えが変わりました。著者の他の作品でも時々感じたことなんだけど、恐ろしいほどの無でありスタイリッシュさ。圧倒的な無感情さで表現されるこの非人間性はやはりすごい。すごく怖い。他にはない世界だと思う。2019/01/26
ネムル
13
リヴォルヴァーよりもオートマティック、といった無駄を排除したシンプルな文章が素晴らしい。白を基調に、血の赤を配した色彩感覚もあわせて最高にクール。ただドンパチをするだけの話と思いきや、拳銃をもつ者の圧倒的な存在感を描くのが上手く、かなり新鮮な驚きに撃たれた。装丁も見事に極まっている。2009/07/16
rakim
12
一旦「撃たれる側」になると不愉快に感じてしまうのですが、おそらく主題はそれではない。何らかの喪失した心、虚無的な空気を感じる類いのハードボイルド(個人的にはハードボイルドの定義には外れていると思っていますが)短編集。片岡さんの小説は「血の匂いがしない方」が好きです。2016/08/21
琥珀
6
角川文庫『狙撃者がいる』をまるごと収録した片岡ハードボイルドの精華。コレクションの第三巻として予定されている『ミス・リグビーの幸福』(アーロン・マッケルウェイ!)も勿論素晴らしいシリーズだが、ノンシリーズ作品を集めている本書のほうが片岡作品の鮮やかさ、切れ味をより味わえるのではなかろうか。感情移入を拒絶するかのような乾いた筆致、圧倒的な色彩感覚、グラフィカルな虚無。久々に読んだが、やはりいい。2009/04/12
yourkozukata
5
日本の小説のメソッドにはないような、独特のプロットと文章。理由のない暴力を淡々と描くことでより恐怖が浮き彫りにされる。でも、一番いいなと思うのは、ハードボイルドものではなくて、「彼女のリアリズムが輝く」なのだが。2009/05/07