内容説明
登山家、筧井宏はネパールの山中で得体の知れない男、デヴィッド・マクスウェルと出会い、彼の予言めいた言葉に導かれるように、ヒマラヤ国際登山隊に加わることになる。他のメンバーは、日本人女性の加藤由紀と、イギリス人男性のジョージ・フェアリングとデニス・ワーウィック。しかしこの登山隊内には最初から不可解な軋轢が見え隠れしていた。クライマーたちが過酷な状況で遭遇した幻想と狂気を描く迫力の山岳小説。
著者等紹介
谷甲州[タニコウシュウ]
1951年兵庫県伊丹市生まれ。大阪工業大学土木工学科を卒業後、建設会社に勤務。退社後は、青年海外協力隊(ネパール)に参加する。その間に創作を開始し、1979年「奇想天外」誌でデビュー。広報誌の編集、国際協力事業団の派遣専門家(フィリピン)などを経たのち、執筆活動に専念。数々のSF・冒険小説を発表した。1996年『白き嶺の男』で第15回新田次郎文学賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ヤスヒ
13
著者が15年をかけて完成させたという山岳小説。ヒマラヤに挑むクライマーたちの命懸けの登山の様子が描かれていている。しかしただそれだけではなくこの物語には幻想的な要素が織り交ぜられ、またサスペンスフルな展開にもなっている。今までに読んだ山岳小説とはひと味もふた味も違うという印象。登山の過酷さ、クライマーたちの心理と緊迫感、山が持つ神聖さ、そしてフワフワとした幻想的な雰囲気…それらが妙にマッチしていた。何となく霧の中に迷い込んだような不思議な感覚になった一冊。まるで白昼夢をみたかのようだった。2012/08/29
つちのこ
4
谷甲州は、1981年にインドヒマラヤ・クン峰に登頂しているほどの作家である。その豊富な登山経験からこの作品が書かれているが、山岳描写から横道にそれる内容になってくるのが不満要素。山一本勝負で書いて欲しかった。(1997.1記)1997/01/18
Tetchy
4
単なる山岳小説と思って読むと、面食らうような内容。発端の導入部から「これは単なる山岳小説ではありませんよ」と警告を促していた事がわかる。この小説はまさにこの非現実的な設定にノレるかノレないかに懸かっているといえる。迫力の登山シーンと超自然的現象である「口寄せ」、そして予知視、もしくは幻視。現実と非現実が渾然となったこの作品。一見アンバランスに思えるが、地球上で最も宇宙に近く、酸素の薄い場所においては何があっても不思議ではないという作者からのメッセージなのかもしれない。2010/01/08
yamakujira
3
ヴァジュラカン登頂を狙う人々をえがく山岳小説。だけど、幻視幻聴をオカルト的な味わいに使っているのはSF作家らしい。人界を越えた高山では、なにがあっても不思議じゃないね。 (★★★☆☆)
いちはじめ
2
SF作家であると同時に山岳小説の名手でもある谷甲州の面目躍如。ちょっと不思議な味わい2005/11/22