内容説明
精神感応者と普通人が共存する月開発記念市。テレパスの少女ルシアは信じていた恋人に裏切られ、命を落とそうとしていた。男は、他者の脳内感応細胞を奪いながら逃亡を続ける犯罪者だった。やがて彼女は脳死を迎えるが、体内に残存した憎悪の念は、周囲に災厄をもたらしはじめる。いっぽう遙か地球では、その強烈な念により危地を救われた男がいた―無限心理警察刑事OZは月へ向かう、ルシアの魂を救済するために…。
著者等紹介
神林長平[カンバヤシチョウヘイ]
1953年新潟県生まれ。1979年、第5回ハヤカワ・SFコンテスト佳作入選作「狐と踊れ」で作家デビュー。第1長篇『あなたの魂に安らぎあれ』以来、独自の世界観をもとに「言葉」「機械」などのテーマを重層的に絡みあわせた作品を多数発表、SFファンの圧倒的な支持を受けている。『敵は海賊・海賊版』、『グッドラック戦闘妖精・雪風』などの長短篇で、星雲賞を数多く受賞(以上、早川書房刊)。1995年、『言壷』で第16回日本SF大賞を受賞した
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
hit4papa
44
テレパスと普通人が共生する月世界。男に騙されて殺害されたテレパスの女性が、復讐の強大は感能力のみを残し、テレパスたちを自死に追いやる、というSF作品です。テレパスの能力が外科的に移植できたり、死体が血液製造工場として活用されるなど、面白いアイディアが散りばめられています。憎悪に駆られた女性の想念に対峙するのは、無限心理警察(!)の刑事。刑事は災厄をもたらす姿なきものを救済することができるのか、という展開です。典型的な悪党が絡むサスペンスフルな作品で、SFが苦手な方でも楽しむことができるでしょう。2022/02/01
まこ
10
殺されたテレパスの少女の遺体は、強烈な残留思念…復讐の殺意を抱えていた。月から地球にも届くほどの強い思念は、やがて周囲に影響をもたらし始める…人類が月に移住したSF世界が舞台。人の心が読めるテレパスと普通の人がいる。月の街やテレパス同士の精神的戦闘など、約250ページの短さの中でよく表現されているなという印象。テレパスの残留思念といえばSFだけど、怨念と言えばホラーとも言えるわけで、ちょいちょいホラーっぽい描写も。苦手な人は注意。とはいえ解説では未来の白雪姫とも評されていて、結末も優しく読後感は爽やか2014/08/12
どんまいシリル
6
サラッと読めたが、途中オカルトチックで緊張した。誰が主人公か解らない感じがした。良し!次に期待しよう。2015/03/03
inarix
6
月面都市でひとりのテレパスの少女が恋人に裏切られ、激しい憎悪を抱いて死ぬ。やがてその念が周囲の人々に死をもたらし始めるが、逆にその憎悪に救われた者もいた。無限心理警察刑事OZ。強力なテレパスであるがゆえに孤独であった彼は、少女の魂を救うために月へと向かう――。読んでいる間、ディックの『流れよわが涙~』作中の台詞が思い出されて仕方なかった。「ほんとうに愛してくれていて、助けてくれる人には会えないものよ。知らない他人とばかり関わりあいになるのよね」。でも、死んでから出会っても、救い、救われる関係がここにある。2014/03/20
おぎにゃん
5
幸薄き少女が死の直前に抱いた憎しみの思念を、OZは「浄化」できるのか…ただ一つの愛を奪われた少女の悲しみが胸に染み渡る。ラストの「救い」では、切なくも優しい気持ちになれる。センチメンタリズムあふれる小品。純真な少年時代に読みたかった。2014/01/13