内容説明
ぼくが初めてオルオラネ爺さんに会ったのは、初雪が降ったある冬の晩のことだった。酒の好きな三匹の猫を連れ、もしゃもしゃっとした髪も、長いあごひげもまっ白なその老人は、猫たちを楽器のようにつま弾き、美しい妙なる調べで、人々の心を魅了してゆく―不思議な老人と猫をめぐる物語を抒情感豊かに描きあげ、夢枕獏の原点とも称される、ロマンチック・ファンタジイ全七篇を収録する『オルオラネ・シリーズ』完全版。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ゆいまある
76
Twitterでこれは経費での青木祐子さんがお勧めしてた本。夢枕獏の初期の短編集。キマイラシリーズのイメージが強いが、なんと元は集英社コバルト。こういうのも書く人だったのか。ちゃんと闇もあり、エロチックさも、ホラーもあるのだが、梨木香歩の家守奇譚を思い出す世界観。酔っ払った猫を弾くという不思議なお爺さんに偶然出会った男性の不思議なファンタジー。山や植物の描写が見事に美しく、ああ、こんな世の中でも綺麗なものはあるのだなと思った。特に最初の数篇が良くて、ずーっと読んでいたい綺麗な夢みたいな話。2021/01/29
おかむー
56
2016年発行の「完全版」は読メでの登録がないのでこちらで感想。夢枕獏が1979年に一冊の本として発行したデビュー短編集に後に発表された数編を加えたもの。『よくできました』。どこか宮沢賢治感を漂わせる童話というよりはファンタジーというか、もう少しオトナな幻想といえばいいのか位置づけが難しいけれど、不思議な“猫弾き”のオルオラネ爺さんを軸としてひとびとのやるせなさ鬱屈した心の澱を題材にした短編集。草木や山などの自然の表現にに限らず、ほのかに幻想的な情景描写にデビュー当時からの夢枕獏“らしさ”が見えて嬉しい。2019/09/15
ワッピー
38
「妖怪大談義」から派生。コバルト文庫の新刊のころからタイトルは気になっていたものの、ようやく読了。なるほど、これが夢枕獏の原点かと納得。清浄な山の気配、都会の猥雑な雰囲気、クリスマスの奇跡の出会い。アルコール大好きなイルイネド、マレット、ショフレンの3匹の猫を自由自在に奏でるオルオラネじいさんは仙人の風格がありながら俗にも身を浸し、神出鬼没。フリーセッションの盛り上がりは、当時のジャズ隆興の熱気ですね。今野敏の奏者水滸伝シリーズを連想しました。一見、ファンタジー風ですが、実は情念に根ざした妖怪小説かな。2021/06/05
よみとも
22
猫弾きって何かと思ったら、文字通り猫を弾く人のことでした。痩せたサンタのようなオルオラネがお酒大好きな三匹の猫を弾いてこの世ならぬ音で演奏し、心に穴が開いてさ迷う人々が彼らに会って光を取り戻していきます。デビュー当初の作品と言うことで、美しい自然の描写、不思議な植物や幻想的な昆虫など、夢枕獏らしさが随所にあるものの、今の獏さんにはないキラキラした瑞々しさがありとてもよかったです。弾くときにオルオラネの膝の上に仰向けに寝っころがる猫三匹のお腹を想像するだけで、猫好きなら悶絶間違いなし。おすすめです。2014/04/16
冬見
18
最後の給料を受け取った楽団員の前に、失恋自棄酒でろでろに酔っ払った山岳ガイドの前に、思い人を失った売れない写真家の前に、いちめんのなのはなの前に、雑誌漁りのほろ酔い探偵団の前に、横恋慕された浪人生の前に、不思議な老人は現れ、爪弾かるる猫は妙なる音楽を響かせる。とっても好きな話。特に「そして夢雪蝶は光のなか」が好き。どの話にも切なく温かい光があって、読後、ほっと肩の力が抜ける。映像的な描写が美しく、まるで詩を読んでいるかのようだった。舞台は現実の日本のはずなのに、どこか別の国の、異世界を思わせる。2018/05/10