内容説明
火星への最初の探検隊は一人も帰還しなかった。火星人が探検隊を、彼らなりのやりかたでもてなしたからだ。つづく二度の探検隊も同じ運命をたどる。それでも人類は怒涛のように火星へと押し寄せた。やがて火星には地球人の町がつぎつぎに建設され、いっぽう火星人は…幻想の魔術師が、火星を舞台にオムニバス短篇で抒情豊かに謳いあげたSF史上に燦然と輝く永遠の記念碑。著者の序文と2短篇を新たに加えた新版登場。
著者等紹介
ブラッドベリ,レイ[ブラッドベリ,レイ][Bradbury,Ray]
1920年、イリノイ州生まれ。1947年に最初の短篇集『黒いカーニバル』が刊行された
小笠原豊樹[オガサワラトヨキ]
1932年生、詩人、ロシア文学研究家、英米文学翻訳家(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
538
分類するならば、SFのジャンルに入るのだが、ブラッドベリの場合は本書に限らず、SFというよりはむしろ宇宙空間を舞台にした(本書の場合は火星)ファンタジー語りである。そのお蔭で、いかに宇宙や科学についての認知が進もうが、あまり影響を受けることもない。本書にしても1950年の刊行だが、一向に古びないのである。今では火星に高等生命体が存在することはないというのが常識であってもだ。本書は1991年の第1回探検隊に始まって、2026年の火星人に至るまでの年代記なのだが、そのスパンの大きさもまた魅力である。2019/07/24
パトラッシュ
150
それなりの文明を保有していた火星人が突然滅びたのはなぜか。遠い異境に住むアメリカ人は、祖国が核戦争になろうとすると女子供も含め一斉に帰国するのか。生き残った火星人の特異な能力は何なのか。あまりに淡々と不可思議な出来事が連鎖する本作は、読んだ人すべての抱く疑問が一切解決されずに終わる文字通りのSF(すこしふしぎ)だ。本格ミステリーとは真逆のわけのわからなさに引っかかって、大好きなブラッドベリ作品でも敬遠気味だった。果たして本当に彼は見えない絨毯を織っていたのか。これこそが本書の提起した最大の謎かもしれない。2020/02/05
佐々陽太朗(K.Tsubota)
148
これはまさにアメリカ移民の子孫たるブラッドベリの原罪意識が書かせた小説ではないか。西欧人によるアメリカ大陸の征服あるいは入植で原住民の居住地と財産を奪い、殺戮し、免疫のない伝染病に罹らせてしまったといった罪の意識である。その意味で『アメリカ年代記』といって差し支えないと思われる。「月は今でも明るいが」に登場するスペンダーに共感を覚えた。 読み終えた後、久しぶりにRocket Man(Elton John)と Cortez the Killer(Neil Young)を聴いた。 2015/02/14
やきいも
99
海外SF小説の人気投票で上位にランキングされる事の多い有名な作品。ドキドキするようなストーリー展開はなく、むしろSFとしては地味な部類に入る。火星に移住した人類達の運命を描いた話。ストーリーの終盤では地球で核戦争が起きる。火星は、そして人類はどうなるのか...。人類のたどる運命に「生きるはかなさ」のようなものを感じずにはいられなかった。ブラッドベリ独特の詩的な文章、そしてこの作品全体に流れるロマンティックな雰囲気が自分にはあっていた。また読み返したい。2015/08/28
naoっぴ
91
火星を第二の地としてアメリカから移住する開拓者たちを、さまざまな角度から描いた連作小説。家族愛や古き良きものへの郷愁、当時の社会風刺も織り交ぜながら、ときにシュールに、ユーモラスに、エピソードを積みあげ、時系列に年代記として編みあげる。SFジャンルではあるけれど、幻想ファンタジーという方がしっくりきていい。電話やラジオといったアナログな小道具を用いながらも、ファンタジックな物語性で魅力はまったく色あせない。ラストはとうとう…という感じで、寂しくも美しい余韻があとを引く。2019/09/09