内容説明
人類初の木星大気圏の探査に気球で挑むハワード・ファルコンの驚異にみちた冒険をスリリングな筆致で描き、ネビュラ賞を受賞した表題作、電磁加速ランチャーで月面から地球に帰還しようとして事故に遭ったクリフ・レイランドの顛末を物語る「メイルシュトレーム2」などの中短篇、海洋、動物の超感覚、『2001年宇宙の旅』シリーズの総括、宗教と、さまざまなテーマを扱ったエッセイ四篇、年譜を収録した、短篇集第三弾。
著者等紹介
中村融[ナカムラトオル]
1960年生、1984年中央大学法学部卒、英米文学翻訳家(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ぐうぐう
19
SFであるからには、宇宙を舞台とした作品が多くなるのは必然だろう。しかし、クラークの短編は、宇宙を描きながらも、海や山を舞台としていることがユニークだ。それは、クラークが自然を愛でていたからだが、そこには彼の探究心が窺える。クラークがスキューバーダイビングに夢中になったのは、陸上では見ることのできない未知なるものとの出会いを求めてのことだったろう。クラークにとってSFとは、つまりは探求の文学だということだ。短編といっしょに収録されているエッセイも、クラークという小説家を読み解くのに有効だ。(つづく)2014/03/13
kochi
18
彗星を目指した探査船〈チャレンジャー〉は、コンピュータの故障から帰りの軌道計算が不可能となる。船長代理のタケオは、キテレツなアイデアを思いつくのだが…(「彗星の核へ」) クラークの短編集の第3部。絶対の真空や、厳しい環境下での遭難のテーマ短編がいくつかが含まれていて、クラークもこういうのを書いていたんだ。長編からはとにかく真面目なクラークというイメージであったが、これらの遭難テーマの主人公にはルールがあって、悲劇的な結末に登場する主役は性格が明るくて、どこかハインラインの作品の登場人物みたいである。2020/05/04
鐵太郎
16
ザ・ベスト・オブ・アーサー・C・クラーク 第三弾。1960年から1971年までの短編と、エッセイが4編。487ページ以後は、1981年以後のクラークの年譜です。死ぬ前年、2007年12月16日、90歳の誕生日を迎えたクラークは、友人に向けた別れのメッセージを残したとか。生きているうちに地球外生命体が存在する証拠を見たかった とのこと。 巨星墜つ、というニュースは、2008年3月末、世界に配信されました。2010/01/15
キョウラン
10
山岸真氏のツイッターで話題になったので手にとって読んでみた。イチオシは「メイルシュトレームⅡ」、「太陽からの風」、「メデューサとの出会い」でした。あらすじは「メイルシュトレームⅡ」は電磁加速ランチャーで月面から地球に帰還しようとして事故にあったクリフ・レイランドの顛末を物語る話。まあわかりやすくいうと映画の「アポロ13」のような話がまず1本。「太陽からの風」は燃料いらずの太陽風帆走(ソーラー・セイリング)の話、アイデアが光る。「メデューサとの出会い」は木星探査の話。まあこの短編集のコンセプトは太陽系をめぐ2012/05/16
roughfractus02
9
1960-71年の間の14編(『10の世界の物語』と『太陽からの風』から抜粋)が収められた本書は、作者の作風が手に取るようにわかる作品が並んでいる。宇宙や海での危機に面して、ふと機転を利かせる者や神秘的な現象で回避する者の物語は、科学技術をヒントに読者もスリリングな解決に同化できる。一方、科学技術を振り回して日常の行為を無意識に行うと他の星の生物に致命的な影響を及ぼし、企業間の争いに急かされた利己的な追求は苦い発見に至る。技術が倫理を踏み外す物語は読者を物語から異化し、生命である読者自身の世界に引き戻す。2023/10/21