出版社内容情報
『注文の多い料理店』『風の又三郎』「雨ニモマケズ」『銀河鉄道の夜』……。あの名作たちが教える「人生の気づき」とは?賢治にとって「幸せ」とは何だったのか?波乱の生涯を追い、作品の本質をピンポイントで解説。その全てが1冊で分かる、決定版・再入門の書。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
鉄之助
119
900円でこの中身の充実ぶり、お買い得です。五感に敏感であった賢治は、「共感覚」の人だった。「一つの刺激に二つ以上の器官が反応し、感覚が混合してしまう」という。してみれば、数々の賢治の作品に漂う腑に落ちない、不思議な感覚も納得がいく。「音に匂いがついている」作品をもう一度読んでみたくなった。奥が深い。2018/11/12
東谷くまみ
36
唯一の理解者である最愛の妹トシを11月に亡くした賢治はあの日、空をどんな気持ちで見上げたのだろうか。晴れ渡る空を見てふと胸が苦しくなった。悲しくも美しい詩「永訣の朝」。あめゆじゅとてちてけんじゃ−ずっと使い続けた2つのお茶碗。逝ってしまう妹のために賢治はそれに雪を満たした。大切な妹のために何もできなかった兄としての後悔、最後までお坊ちゃんで農民に寄り添おうとすればするほど空回りする賢治、理想と現実の狭間で苦しみや痛みを抱えながら追い求めた「ほんとうのさいわい」。優しさで溢れた不器用な人生はとても愛おしい。2022/12/19
ykshzk(虎猫図案房)
13
ジョバンニが印刷所の賃金でパンと角砂糖を買う姿に私が思うほんとうの幸せの一つの形があり、それを心の重しとしているせいで自分は色々保っていられる。賢治が貧しい家に生まれていたら小説は書かなかったかと思うと、ファンとしては彼の苦悩を生んだ境遇に感謝だが、本人の辛さたるや。さそりの話に代表される自己犠牲、一方、毒もみの話のような、死んでもやめられないほどの執着や偏愛。真逆の命の使い方がさらりと出てくる賢治文学の魅力は深い。あなたにとっての毒もみは何ですかとの本書の著者の問いに答えられない自分は幸せなのだろうか。2019/01/30
てん
11
気にはなるものの、満足に宮沢賢治の作品を読んだことがないので、宮沢賢治の世界を広く浅く把握できたらと読んだ。意外に死の影が感じられたり、独特の表現の中に怖さがある。2022/02/25
Kei.ma
11
しあわせの求道者と言っていいでしょう。その宮沢賢治さんの精神を、作品群から読み解こうとしたのが本書です。著者が「ほんたうのさいはひはわからない」という賢治さんの言葉を繰り返し引用していたことに共感しました。つまり、空がキインキイン鳴くとか、カプカプ笑ったかの表現を科学的に読み解くことは不可能です。自然や生き物と対話しようとすると表象から音や匂いを感じることができるんだ。だけど、実はそれさえ幸福なことかどうか分からないんだ、と。四月、初めて彼の暮らした町に行きます。北上川沿いに桜は咲いているでしょうか。2019/02/02