出版社内容情報
だれもが避けられない「死」を受け容れる手がかりが、そこにある。
『死ぬ瞬間』(原題"On Death and Dying")は、「死とその過程」に学術的な視点から光を当て、大きな反響を巻き起こし、長く読み継がれてきた名著だ。
精神医学の研究者だった著者エリザベス・キューブラー・ロス(1926-2004)は、アメリカで医療活動を始めようとしたとき、病院側による劣悪な終末期患者の扱いに愕然とし、医師や看護者と終末期患者の関わりについての研究をスタートさせる。1965年、その研究を深めるために行われた「死とその過程」に関するワークショップで、キューブラー・ロスは終末期患者約200人と面談。死にゆく人々の心理を徹底的に分析した。それが『死ぬ瞬間』である。実際のインタビューを例示しながら、終末期患者の心の動きや治療者側の対応の是非などが、リアルに綴られている。
その分析によれば、多くの人が、「否認と孤立」「怒り」「取引」「抑うつ」「受容」という5つのプロセスを経ていくという。患者はそれぞれの段階で特徴的な心理状態になることから、治療や看護、介護をする人たちがそれを感知することで、よりよいケアができる。さらにこの知見は、グリーフケア(死別による悲しみや喪失感を抱えた人をサポートする療法)の発展にも寄与してきた。もちろん、自分がどう死と向き合えばよいのか、肉親や親友が死に直面したとき、どういう態度を取るべきかについての示唆にも満ちている。
かつて、死への恐れの多くは、宗教や信仰によってやわらげられてきた。しかし、科学的思考がもたらされた近代以降、宗教や信仰の役割は減じる。死への恐れを軽減する手段を持ちえないまま私たちは、死を避け、考えないようにしてきた。しかし、死は現実のものとして、誰にでも訪れる。ならば、それをどのように受け容れるべきなのか--。
現代人が忌避してきた「死」について、宗教学者であり、グリーフケアについて長年研究を続けている島薗進氏は「いまこそ『死ぬ瞬間』が提示する、死を前にした人たちの内面の記録を読み、その態度から学ぶべき」という。いまも色褪せない記録から、死と「向き合う」態度を養う。
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