出版社内容情報
世界一の名探偵は、いかに生まれたのか?
英国の作家コナン・ドイルが生み出した一人の探偵は、
世界中にフォロワーを生み出す「最強」の探偵となった。
「緋色の研究」「グロリア・スコット号」「赤毛組合」「ボヘミアの醜聞」など数々のホームズ作品を通して、
人間性の闇と光を考えるとともに、探偵小説がもつ文学的な意味を探究する。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ころこ
43
探偵小説は文学の傍流ではなくて、読者を惹き付けるプロット、観察眼としての外形描写、内面の心理描写と事件の推理と、文学的な要素に満ちたジャンルだ。著者はワトソンの語りに着目していて、人称を論点に正統的な文学論になっている。ワトソンには凡庸なイメージがあるが、実は医師であり、観察眼と洞察に優れていて、ホームズの優秀さを最も近くで見抜いていたともいえる。本書を読むのは簡単だ。ポピュラーな題材でもある。にもかかわらず文学のエッセンスを味わうことができるのは、著者の優れた整理能力と平易な文章によるところが大きい。2023/09/15
ぽてちゅう
24
ホームズ様、ご無沙汰しております。放送に合わせ予習して全4回、歴代最強の探偵シャーロック・ホームズの指南を受けました!60作品をギュギュギュギュっとまとめているので、一度でもハマったことのある人の方が通りが良いかもしれません。あらためて知るホームズの魅力。「見ることと観察することははっきり違うのだ」そう、観察力。秘密や嘘に端を発する事件を解決する推理分析力。人生の機微、人間の弱点や闇の部分を探る洞察力。19世紀末にしては新しい、女性に対するリスペクト。今、ホームズシリーズを読み返したら「味変」楽しめそう。2023/09/28
歩月るな
21
タネがわかっているから見なくてもいい、読み捨てにされるようなゲームではなく「文学」である、という結びの言葉には元気づけられるような気もするし、かつ平和な時だからこそ読まれる、という説には、逆説的に身内が死ぬ時でも探偵小説を読んでいた自分は普通の感性ではないんだろうな、と言い渡されているような小気味の良さがあって、さすがの指南者である。こうして解説されてみると、割合に当時においてもホームズ譚らしきものを批判してる人たちって、実は読まず嫌いでそんなにホームズ読んでなかったんじゃないかなという気もしてくるワケ。2023/12/07
イリエ
17
「シャーロック・ホームズ」シリーズは、物語ありきではなく、まず媒体ありきだったんですね。作者のコナン・ドイルが、そこに合わせて創作していたとは。物語の前にビジネス戦略があったことを初めて知りました。さらに、キャラクターから社会情勢まで味わわせてくれていたんですね。さらに、ドイルは自分とワトソンを重ねて読者をたてる工夫をしていたなんて。今も読みやすいのは、そういうことなんですね。2023/10/07
あきあかね
16
本書は、具体のホームズ作品を多様な視点から読み解き、単なる作品紹介にとどまらず、ミステリーとは何か、ひいては小説、文学とは何かといった大きな問いへと繋がってゆく。 ホームズシリーズは、謎解きやトリックの面白さはもちろんあるが、「唇のねじれた男」における、金と安楽の誘惑に負ける人間の弱さや、「ボヘミアの醜聞」における、機知と行動力を備え凛としたアイリーン・アドラーという新しい女性像など、人間を深く、精緻に描きこんでいるため、時代を超えて幾度も再読に耐えうる普遍性を持つ文学作品となっている。⇒2023/09/29