出版社内容情報
後醍醐天皇、足利尊氏、楠木正成、高師直、佐々木道誉……南北朝時代を舞台に個性豊かな人物が躍動する、日本最長の軍記物語。既存の価値観が大きく移り行く「あわいの時代」に、何を信じて己の生をまっとうすべきか? 複雑な物語を大胆に整理しつつ、その真髄を余すところなく伝える。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
アキ
98
「平家物語」からおよそ150年後の鎌倉時代末期から室町時代にかけての南北朝時代。1318年後醍醐天皇が即位し1392年義満により南北朝合一まで全40巻に渡る軍記物。平家物語が諸行無常という仏教の思想が根底にあるのに対し、太平記は論語からの引用が多く儒教的な政道観がある。中国の李康「運命論」に「聖明の君には必ず忠賢の臣あり」とある。やはり後醍醐天皇と悪党・楠木正成の関係性が明治維新以降再び称揚されたことが印象的である。登場人物はやがて死に室町時代に移行する。これをあわいの時代とするのは後世からの視点である。2022/08/14
Y2K☮
33
南北朝関連の歴史書と「太平記」の関係性は「三国志」における正史と演義のそれに重なる。後者は勧善懲悪に翻案したフィクションだが、前者から漏れた真実を補完する役割もいくらか果たしている。楠木正成が負けるとわかっていて湊川で戦った理由は著者の見解通りかもしれぬ。少なくとも後醍醐天皇ではなく足利尊氏こそ次代のトップに相応しいと考えていたのはたしか。あと気になるのは佐々木道誉。高師直もそうだが良くも悪くもホリエモン系の感性を感じる。こういう善と悪、旧と新の「あわい」に位置する過渡的人材を上手く使うのも器量のうちか。2022/07/12
加納恭史
26
太平記を読んでみるが、この本は大変に良く、また内容も深い。著者は能楽師の安田登さんで、能楽にも論語にも朱子学にも造詣が深い。まあ現代的なリーダー論にもなる。主役は後醍醐天皇と足利尊氏だが、そのリーダーぶりが問題。歴史の間でどのような理想を掲げたのか?鎌倉幕府の北条高時の驕りや腐敗の政治に後醍醐天皇や足利尊氏は憤慨し、倒幕に走った。北条執権政権は敗れた。だが、後醍醐天皇の親政はまたしても腐敗し、宴や遊興に溺れ、公家を優遇し、倒幕に協力した武士に恩賞(土地)を与えない。足利尊氏は離反し、やがて足利幕府を作る。2022/08/08
フク
15
#読了 鎌倉時代から室町時代へと移り変わりを描いた「太平記」の解説。 「あわい」という言葉を初めて知った。間ではなく、過渡期という理解でいいのか。 次の目標は太平記に決めた。馴染みもいるし何とかなるだろう。 kindle2023/03/01
アーサー
15
通読。7月に読み始めて、1ヶ月以上放置しながらも読了◆全40巻からなる日本最大の軍記物語『太平記』の解説本。解説者は能楽師の安田登さん◆解説者は「A∩B」を「AとBのあわい」と表現する。AとBの状態が重なっているが、当事者はそれに気付いていないと言う。『太平記』が描くのは「鎌倉時代∩室町時代」であり「公∩武」である◆ストーリーを追うのもなかなか大変だった。登場人物が多く、さらに寝返ったり(!)する。とはいえ『平家物語』との対比やあわいという切り口により整理されている◆原著を通読するのは困難なので解説に感謝2022/10/24