感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
アキ
86
NHKEテレでは良くも悪くもキャストのアクが色濃く出てしまう。東大准教授武田氏はデフォー著作「ロビンソン・クルーソー」のみならず、彼の手記など読み込んで思い入れのある作家だということがわかる。この書がその当時のイギリスでどんな意味があったのか、本の構成や記述から論考するだけでなく、現代のコロナ禍に引き寄せて人間の本質に肉薄しようとする。またデフォーのおけるこの本の書かれた時期から小説ではなく、ペストに興味を持ち記録集のような側面もあったと指摘する。武田氏の複眼的な見方が、今の時期に読むからこそ腑に落ちる。2020/09/30
shikashika555
36
ダニエル・デフォーが今に生きていたら、SNS記事がきっと売れていたに違いない。 現在のコロナ禍にあっても、同じような 記録と物語が混在したようなごちゃ混ぜスタイル?で記録をつけている人がいるかもしれないな。 少し前に読んだ、パオロ・ジョルダーノ「コロナの時代の僕ら」なども、このようなジャーナル系ノンフィクション(なんて言葉はあるのかな)に当たると思う。 全くの事実だけを羅列したものは学術的には大いに意味があるが、一般的に人々に語り継がれるためにはやはり、そこに物語がなくてはならないものだ。 2020/10/05
ころこ
35
コロナ禍の最中に選択された図書という文脈を、現在はあえて外して読む。著者は『イギリス文学入門』でもデフォーとスウィフトの項を担当しており、本書にはうってつけの人選だ。群像新人賞を受賞しており、野心的な変わった経歴を持っている。極めて平易で、批評的な読みをしようとしていることは伝わる。『ペストの記憶』は、小説というよりはノンフィクションとして読むことができるだろう。カミュ『ペスト』との相似よりも、日常性が壊れた状況は『マリウポリの20日間』で観た略奪の光景、そうなった後に出会う人間の様子が思い出された。2024/06/11
かふ
20
原作は読まなくていいかな。コロナ禍で次々にパンデミック文学の再発されているがデフォーは1966年のロンドンで起きたペスト大流行を当時の公文書や実際の逸話をもとにデフォーの視点も交えて複眼的視点で描いた作品。記録文学。デフォーは文学的には『ロビンソン・クルーソー』が植民地主義文学として批判されているが、当時のイギリスの神のご意思のもとに運命が定められているという予定説で、マックス・ウェーバー『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』に近いとされている。デフォーはカルヴァン派。2020/09/30
どんぐり
13
武田先生の解説のおかげで、原著の特徴を大まかにとらえられる。約400年前に流行したペストを題材に著されたフィクションとノンフィクションをあわせたような書。 正解もなく終わりも見えない恐怖の中にこそ、人間の美しさや卑しさといった本質がみえる。様々な視点から生まれる葛藤、不条理と、どう向き合うかを考えさせられる。私たちが現在おかれているコロナ感染症との関連に思いを馳せながら読みすすめる。難しい。ぼんやりしたまま読み終えた。2020/12/13