内容説明
先鋭的な現代詩人が紡ぐような綴った、美しくも高密細心な口語体にみちびかれ、詩・歌・句を味読する感動の詩論。だれもが知っている、朔太郎・啄木・山頭火・中也・晶子・茂吉・賢治のほか、西脇順三郎・田村隆一・吉岡実・尾崎放哉・安東次男・折口信夫・伊東静雄・三島由紀夫、W.B.イェイツそして中国・韓国の詩人たちを旅する。
目次
類例のないヴィジョン―萩原朔太郎
宇宙的な心細さの人―西脇順三郎
言葉のない世界―田村隆一
無言の仕草へ―石川啄木1
何人といえども読み得る人はあるまい―石川啄木2
詩の経験のあたらしい道筋―イェイツ
イェイツから柳田国男へ
美しい魂の汗の果物―吉岡実
絶えることなく差し出された手紙―尾崎放哉
大きな蝶のような言語―種田山頭火〔ほか〕
著者等紹介
吉増剛造[ヨシマスゴウゾウ]
詩人。1939年東京生まれ。慶応義塾大学国文科卒業。在学中から『三田詩人』『ドラムカン』を中心に詩作活動を展開、以後、先鋭的な現代詩人として高い評価を受ける。60年代末から詩の朗読を続ける一方、現代美術や音楽とのコラボレーション、写真などの活動も意欲的に展開。近年銅板オブジェの制作を始める。主な詩集に『黄金詩篇』(高見順賞)、『オシリス、石ノ神』(現代詩花椿賞)、『螺旋歌』(詩歌文学館賞)、『「雪の島」あるいは「エミリーの幽霊」』(芸術選奨文部大臣賞)など
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感想・レビュー
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燃えつきた棒
33
この本を手に取ったのは、岩波文庫の『ドン・キホーテ 後篇(ニ)』を読んでいたら、活字が小さくて涙が止まらなくなってしまったためだ。 だが、ドン・キホーテという老いた幻視者の姿は、案外老いた詩人の姿と極めて似ている。/ 尾崎放哉と種田山頭火を取り上げているのが目を引いた。 山頭火と井上井月は昔読んだが、特にどうということもなかった。 せっかくだから、とりあえず放哉も読んでみるか。/2023/08/14
gu
5
引用されている詩作品よりもそれを紹介する吉増剛造の散文の方がはるかに読みにくいという奇異な本。引用文の中に相槌を入れる。傍点や引用符や三点リーダが著者の感覚で挟まれる。カッコ内の言い足しが支流のように伸びていく。音読を聴いたほうがスッと入って来そうだが目で見ることを前提とした書き方をしているのが共感覚的である。あるいは本文で言うところの「楽譜」としての言葉か。2023/07/16
gu
4
吉増剛造がどのように本を読むのか、ずっと気になっていた。詩人や作家たちの読みを「我が眼と」して、「眼と同伴しながら」、ある時は「呼吸を量るように」、「言葉が砕ける音が聞こえるようにして」、あるいは「声にあらわれない声もかさねましての二重、三重化のこころみ」等々。いくつもの小道が伸びていくような文章に引っ張られて読んでいくうちに自分一人では聞こえない声も聞こえてきそうな気がした。2016/10/11
袖崎いたる
3
吉増剛造の血肉を紹介している。これから血肉となるもの、まさに血肉とならんすとるその瞬間さえ押さえているので、国語や現文の義務教育的な授業風景におけるグッとくるポイントを熱く語り、市場価値じみた商品紹介をするが如き教師よりも、遥かに滋味がある。実作者の声は尊い。そう、声なのだ。聞かねばならない声。詩人が歌う魂のうた。ここを掬さんとする講義風景。本書を通じて私は自分の声の良さを指摘されるマズさへの問題意識に気づけた。ありがたし、ありがたし。小津映画のどれかで見た笠智衆の浪曲を思い出しつつ、あれを志向したい。2021/02/12
工藤 杳
0
語り口がいい。吉増の詩を読むかのようで、語りそのものに詩が憑依していく。2017/06/26