内容説明
自由と孤独の時代に生きる「人間の自意識」を描いた、漱石不朽の名作『こころ』。それは今からちょうど百年前に、現代人の肥大化する自我を見通した先駆的小説でもあった。「あなたは腹の底から真面目ですか」。功利的な生き方を否定し、あえて“真面目さ”の価値を説いたこの作品を通して、人との絆とは何かを考え、モデルなき時代をより良く生きるための「心」の在り方を探る。
目次
はじめに 「心」を書こうとした作家
第1章 私たちの孤独とは
第2章 先生という生き方
第3章 自分の城が崩れるとき
第4章 あなたは真面目ですか
ブックス特別章 「心」を太くする力
著者等紹介
姜尚中[カンサンジュン]
1950年熊本県生まれ。政治学者、聖学院大学学長、東京大学名誉教授。早稲田大学大学院政治学研究科博士課程単位取得退学。ドイツ・エアランゲン大学に留学したのち、国際基督教大学准教授、東京大学大学院情報学環教授などを経て、2013年4月より聖学院大学全学教授、14年4月より同大学学長。国境を超越し、「東北アジア」に生きる人間として、独自の視点から提言を行っている(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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レモン
32
高校の授業で出会った『こころ』。当たりの先生だったおかげで、今でも授業風景を鮮明に覚えているほど衝撃を受けた作品。その授業は、かの有名な「精神的に向上心のない者は馬鹿だ」の解説だった。「死をたくさん描くことで、生を浮き彫りにしている」「先生はわたしに出逢えたから死ぬことができた」などの記述にとても納得した。名著を読み解く様々なヒントが得られ、新たな深層に入り込めるので、100分de名著テキストは最高。『こころ』も読み返したいし、他のテキストも読みたい。2021/11/18
しょうじ@創作「熾火」執筆中。
24
【1回目】恥ずかしながら、まだ漱石の本文を読み終えてはいない。必要に迫られて、こちらを先に読んでしまった。あらすじは「まんがで読破」シリーズで読んでいたので助かった。明治という規範を喪失した時代に根無し草となった「K」と「先生」の自殺と考えていたのだが、どうもそうではないようだ。「先生」は「K」の人生を引き受け、さらに「私」に自分の人生を託したのだと著者は言っているように思えた。「100分de名著」テキストに一章を加えての刊行。さて、青空文庫で本文を読まなくては。2019/02/28
那由多
20
夏休みの間に『こころ』を再読しようと思っているので、他の方の解釈を参考にしたく100分de名著をチョイス。藤村操の存在、煩悶青年という社会問題などは『こころ』を読んでいるだけでは知り得ない情報だった。先生と父の存在の対比、“死”を連ねることによって“生”がいかに大切かを伝えている、という解釈も思い至らなかった。多義的な読みを許す為、どうとでも読めてしまう。再読の際には、私なりの解釈をしてみたい。2019/08/11
navyblue
20
名作「こころ」を著者ならではの視点で丁寧に読み解いていく。Kの自死の原因や、先生との関係、先生自身の心のうち、時代の背景など、様々な事柄に焦点を当てて考えていく。読みながら、漱石がこの物語で表現したかったことは何だったのか、自分なりに感じることができたように思う 。2018/03/29
ロビン
18
kindleunlimitedにて一読。漱石は金銭や制度上の虚の関係が確立され始めた明治の世で、当人の意思で結ばれた「私」と「先生」という実の師弟関係を提示したのだという。わたしも若い頃、模範にできるような大人が見つからず孤独を抱えていたが(命に代えても信念を貫く位な人でないと信頼できないし師とするに足りないと思っていたがそういう人はなかなかいなかった)、幸い人生の師となる人と出会えて幸福であった。「先生」の人生が「私」に打ち明けられ受け継がれて生きていくという視点から見るとこの小説に温かみを感じられる。2019/11/18