出版社内容情報
田渕 久美子[タブチ クミコ]
著・文・その他
内容説明
明治になり松江藩でも、武士たちはその身分、家禄を失った。幼いころは武家の娘として大切に育てられてきたセツは、住まいを追い出され、働く意欲を失った父に代わって、縫物仕事や機織りで糊口をしのいでいた。折しも日本に憧れ、来日したものの、原稿が採用されず、英語教師となったラフカディオ・ハーンが松江の尋常中学校に“ヘルン先生”として赴任する。縁あってセツはハーンの身の回りの世話をすることに。セツが語る怪談に興味を示したハーンは、何度も繰り返し話すように頼む。こうして二人の共同作業が始まった…。
著者等紹介
田渕久美子[タブチクミコ]
島根県生まれ。脚本家・作家。主な脚本に、NHK連続テレビ小説『さくら』(橋田壽賀子賞)、日本テレビ系『冬の運動会』(放送文化基金賞・テレビドラマ番組賞)など(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
KAZOO
92
「ヘルンとセツ」という題名ですが、どちらかというとセツが主人公のように感じます。小泉夫妻については池田先生の著作でかなりわかってはいるのですが、このようにドラマ仕立てにしてくれるとまた異なった感じがします。セツの幼少のころからヘルンと知り合い、熊本の学校に移るまでのことが語られています。それにしてもセツを頼りにしていた係累が多かったことをあらためて知りました。2022/12/30
nico🐬波待ち中
85
小泉八雲といえば怪談。あの怪談の数々に、後に妻となる小泉セツがこんなにも深く携わっていたなんて。夜な夜なセツがハーンに怖い話を語り、ハーンがワクワクしながら喜んで聴く。そんな二人がとても微笑ましかった。やがて沢山の障害を乗り越えて生まれた二人の愛。日本に根を下ろすことを決意したハーンの心意気と、いつも誠実に懸命に生きるセツの心根に胸打たれた。セツの潔さがとてもいい。そして「ヘルン先生」とハーンを慕う松江の人々の温情と、目の前に広がる明治の松江の優美な景色や人々の暮らしぶりに清々しい気持ちになれた。2022/10/22
ゆみねこ
81
小泉八雲と妻セツの物語。明治になり没落した士族、セツは武家の娘として大切に育てられていたが父が事業に失敗し困窮した家族のため働き詰めの日々を送る。日本に憧れ松江の尋常中学校の教師としてやって来たヘルン先生ことラフカディオ・ハーンと出会い、結ばれるまでの物語。とても読みやすく面白かったが、もう少し先の2人のことを知りたかった。セツの聡明さ、家族たちのだらしなさ。映像化したら面白くなりそう。田渕久美子さん、初読み。2022/12/17
いたろう
74
ヘルン先生=ラフカディオ・ハーン、小泉八雲とその妻、小泉セツの物語。ラフカディオ・ハーンの来歴について書かれたものはよく見かけれるが、小泉セツの話は初めて知った。しかも、この小説は、ハーンより、むしろセツの方が中心で、その子供の頃から描かれている。そして、小説の中で、この2人が出会うのは、もう中盤になってから。ハーンと言えば松江という印象が強いが、ハーンが松江にいたのは、たった1年2ヶ月だったとは。小説は、ハーンとセツが、ハーンの転勤で、松江から熊本に移るところで終わっているが、是非、その続きも読みたい。2022/10/02
tamami
63
小泉八雲の著作として手許にあるのは、『日本の心』であるが、その中の一編「停車場にて」という作品は、何度読み返してもその度に胸が熱くなるのを覚える。本書から、ハーンの異文化異文明に対する感性がどのような生涯から培われたのか、その秘密に触れる思いがした。彼の生涯、伴侶となるセツの半生をほぼ忠実になぞったと思われる本書は、当時の世相と共に、幕末から明治に掛けての様々な人々の生き様を描いていて、巻措く能わざる面白さがある。非常に俗っぽい読み方ではあるが、二人の後半生が世間的に幸せな生活を送ることが出来て安心した。2022/12/26