内容説明
武士道が唱える武士の潔癖な倫理・道徳。だが、武士は本当に正々堂々と戦い、卑怯な行いを嫌ったのだろうか。『平家物語』「越中前司最期」や『太平記』「阿保・秋山河原軍の事」をはじめとする、数多くのだまし討ちシーンを分析することから、謀略と虚偽を肯定する戦場独特の倫理感覚を明らかにする。「武士道」の虚像を剥ぐ画期的論考。
目次
序章 だまし討ちを考える―『平家物語』「越中前司最期」から
第1章 神話の戦争・征夷の戦争
第2章 戦場のフェア・プレイ
第3章 掟破りの武士たち
第4章 「武士道」の誕生と転生
終章 合戦は倫理を育てたか
著者等紹介
佐伯真一[サエキシンイチ]
1953年生まれ。同志社大学文学部卒業。東京大学大学院文学研究科博士課程修了。博士(文学)。専門は中世文学
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感想・レビュー
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金吾
22
作られた武士道からの解放という観点では大変効果のある一冊かなと思います。ただ自説を印象付けるためかやや片寄っているようにも感じました。2024/05/05
nonnomarukari(ノンノ〇(仮))
6
「武士道」と言うと忠義とかフェアプレーとかいったような理念を言うが果たして下克上や乱取りが横行していた戦国時代の武士にそういった倫理があったのだろうかと疑問に思っていた私にとっては目からうろこの一冊であった。戦国時代に生きた武士の考え方はあくまで敵を欺き、生き残る事で功名を挙げようとするある意味利己的なサバイバル理論であった。明治時代に新渡戸が書いた「武士道」は歴史的史実からかけ離れた物であり、決して戦国時代に生きた武士が考えていた「武士道」ではないと述べられている。多くの日本人の誤解を解く一冊。2010/10/12
なつきネコ@小学生に入学した化け猫
5
題名だけを見て、武士道のような美学が戦場でどう変化してきたか? だと思っていたら、元来の武士は悪どいぞと言う内容。たしかに武士の嘘を武略というなどと明智光秀が言い。騙し討ち、夜襲、騙されるほうが悪いシビアな武士道。たしかに源平台頭から戦国終焉までの小競り合いのえぐさは口には出しがたい。しかし、かたや、平敦盛の潔さを称える美しさもあります。さらに義経が船の漕ぎ手を攻撃したことへの批判は両軍から出たという記述もあります。だから、醜い武略の肯定と美しい潔よさと両立していたのが武士道ではないでしょうか。2016/03/13
すがし
5
極めて示唆に富む一冊。「武士道は日本固有の文化」というほとんど誰もが陥っている虚妄に果敢に切り込み解体していく手腕は見事。一方必ずしも本書の主題とは言えないが、第三章の、「人は常に騙し合い、油断がならないからこそ、曇りのない純粋な目ですべてを見通さなければならない」という記述には、震えが来るほど深い感動を味わった。2010/08/06
Aby
4
武士道が「正々堂々,フェアプレイ」と「転生」するのは明治以降.戦争をしているのだから,何があっても勝って,生き残って,恩賞を貰う.そのためには,奇襲はもちろん,嘘をついてだまし討ちをするのは当然の選択で受容されていた.武士道と云ふはだまし討ちと見つけたり,ですな.2022/09/25