内容説明
いざよひの月はつめたきくだものの匂をはなちあらはれにけり。月に苹果の匂いを感ずるという、賢治の代表的な幻想感覚を詠んだ彗星のようなデビュー作。この十八歳のときの作品こそ、のちの童話「銀河鉄道の夜」へと広がる。賢治の青年期の無垢な感性がそのまま映し出された“短歌”。本書は、賢治の透き通る言語宇宙の始まりともいえるこの三十一文字に、美しい幻想感覚が彩る詩や童話を解読する魅惑の鍵を探る。
目次
第1章 賢治の“短歌”について―純粋な心象宇宙のはじまり
第2章 空と天―そらのひゞわれに異空間を見る
第3章 月と雲―リンゴの匂いとリビドーの象徴
第4章 山と丘―さびしさが噴き出す緑青色の環状丘陵
第5章 湖と波と川―冷たい青色のかなしみを湛えて
第6章 液化と微塵とコロイド―光が交響する新世界
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
がんぞ
1
著者は文藝プロパーではない化学教諭だが、賢治作品に現れるイメージをKJ法を用いて分析した。雨雲は女性、森の木々は男性でリピドーの暗喩。遺作『銀河鉄道の夜』に描かれる“錫が冷却で灰色の粉になる”“空が割れて手が下りてきて鳥の児をつかむ”“月光に重量があり林檎の香りがする”などのイメージが未成年期の短歌から頻出して単なる想像ではなく悩まされた幻影だったのではないか、など。カンパネルラは夭折した妹・敏子が昇華されたのではないかとしている。十九歳のとき大病で学業中断した賢治には妹が身代わりのように思えただろうか2014/09/02