出版社内容情報
赤ん坊は3歳までに、どのように天才的に言葉を習得するのか。脳内の文法遺伝子、人類史上の言語の進化、言葉の乱れは正すべきか。世界的な言語学者がさまざまな疑問に答える傑出した言語本能論。
内容説明
すべての子どもは、文法の基本原理を生まれつき持ちあわせて誕生するが、3歳までにどのように天才的に言葉を習得するのか。脳内のどこかに文法の遺伝子を見出せるのか。人類史上、言語はなぜ、いかに発生、進化したのか。スラングや方言などは、言語の堕落を招くのか。世界をリードする少壮の心理言語学者が、言語本能論に基づき、言葉についてのさまざまな疑問に明快に答える。
目次
バベルの塔―言語の系図
しゃべりながら生まれた赤ちゃん、天国を語る―母語を習得するプロセス
言語器官と文法遺伝子―脳のなかにさぐる
ビッグバン―言語本能の進化
言語指南役たち―規範的ルールの誤り
心の構図
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
absinthe
127
下巻には子供の言語習得の話が出ていて興味深い。妻が外国人で5歳の娘の日本語はabsintheが全責任を持っている。幼稚園に行ってないしテレビも見せてないので、日本語はすべてパパから学んでいる。Sピンカーの書物の正しさは、子供の成長を見ていればはっきりとわかる。ピンカーに論破された理論が正しいなら、娘はまだ日本語ができていないはず。 本書を読んで、人間とは何か深く考えさせられた。「人間の本性を考える」にも通じる重要な一冊。
かんやん
30
様々な言語に共通する特徴は、単一の原言語から受け継がれてきたものではなく、又互いに影響関係にあるからでもない。そもそも本能に由来する言語は進化的な適応であるのだから、人類に共通するものであり、普遍的な文法が心的に存在し、それが様々な言語の統語ルールに反映する、という仮説。instinctという言葉がどうにも挑発的に響くのは、既存の極端な言語決定論への批判があるから。現実にヒトは言葉を操っているのだから、脳の神経回路に文法モジュール(何と呼ぶかは問題だが)を想定するのは全く荒唐無稽ではない。刺激的。2020/12/26
白義
16
人間が民族や文化の違いにかかわらず普遍的に生まれ持っている「言語本能」、生成文法が具体的に人間のどこにあってどう生まれてきたのか。そのルーツを脳科学や遺伝科学の発展と絡めて語っている。僅かな言語学習から生得の文法プログラムを目覚めさせる幼児の発達過程の同一性、加えてもしも一切言語を学ばず育ったら、という当然湧き出る謎にも答えていて話題が広い。言うまでもなく伊藤計劃の「虐殺器官」の元ネタとなった本だが、その鮮やかな言語論の根幹には、民族と同じく言語に優劣や根本的な違いはなく、人類は皆同じという信念があり爽快2018/04/21
まふ
13
下巻は言語を脳の働きの一部であり、人間に自然淘汰的に与えられた本能であることの立証がなされている。後半はおびただしい例示とともにこれを細かく解きほぐしていく。大体結論が見えたところで飽きてきたが忍耐強く読み終えた。ULはチョムスキーの提唱したらしいものの、共通の学説となっていないようであり、一方でエヴェレットには少し異なる議論もあるようである。訳文についていえば英語を1字づつ縦書きにしているため読みにくく煩わしかった。「素語」の配列を比較する部分がこれでもかと続き豊富すぎる例示で示されてうんざりした。2020/11/11
isao_key
11
下巻は子どもの言語習得についての記述がある。それによると「6歳までは確実に言語が獲得できるが、それ以後は確実性が徐々に薄れ、思春期を過ぎると完璧にマスターする例はごくまれになる。学齢に達するころから脳の代謝活動やニューロンの数が衰退するとか、代謝活動やシナプスの数が死守運気前後に最低レベルに達して以後横ばいになるとかいった成熟に伴う変化が原因として考えられる」とある。このような報告は藤永保『ことばはどこで育つか』にも詳しく紹介されている。本書の残念な点は、引用文献、参考文献をきちんと挙げていないところ。2015/09/09