出版社内容情報
絵入り雑誌と呼ばれる薄手の週刊誌が次々と発行された19世紀末のロシア社会.新しいメディアを享受した読者とは誰か,読者の変遷がもたらす文化の変容こそが,農奴制廃止や教育改革などの大改革から革命に至る騒擾という歴史の転換点につながることを明らかにし,近代ロシア像に再考をうながす.
目次
序論 ツァーリと大衆―問題の所在
第1章 絵入り雑誌の登場と近代ロシアのメディア構造
第2章 読者大衆の成立
第3章 インテリゲンツィヤと出版―評論家ヴラジーミル・スターソフの闘争
第4章 ナロードと出版―農民企業家と正教ジャーナリストの連帯
第5章 専制と出版―ニコライ二世の肖像をめぐって
結論 帝政末期の読書の社会史
著者等紹介
巽由樹子[タツミユキコ]
1978年神奈川県鎌倉市に生まれる。2001年東京大学文学部卒業。2009年東京大学大学院人文社会系研究科博士課程単位取得満期退学。日本学術振興会特別研究員、東北大学東北アジア研究センター教育研究支援者を経て、東京外国語大学大学院総合国際学研究院講師。博士(文学)(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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あらたま
6
19世紀前半、ナロード向け木版(ルボーク)冊子と知識人向け文芸誌でもある厚い雑誌(トルストゥイ・ジュルナル)。西欧発薄い雑誌=絵入り雑誌。廉価な「ニーヴァ」の普及。読んだのは見失われたロシアのミドルクラス。トルストイも知らず絵入り雑誌を読む軽い読書(リョフコエ・チテニエ)は馬鹿にされつつ次第に席巻。世界への好奇心を満たす。皇帝の表象も西欧式出版によってブロマイド化し、従来の、またニコライ2世が取り戻そうとした聖性を解体される。革命後絵入り雑誌の創業家は亡命したが、1923年「赤いニーヴァ」が創刊された。2020/01/04
Rick‘s cafe
4
帝政末期のロシアの社会集団は、ナロードとインテリゲンツィアというわけ方語られることが多い。しかし、その中でミドルクラスとなる層の存在は非常に影がうすかった。そこで「厚い雑誌」に対置される大衆向けの絵入り雑誌に着目し、見失われたミドルクラスと大衆の存在を浮き彫りにしていく。さらに、この絵入り雑誌がロシア社会の専制政治にどのような影響を与えてしまったのかにも触れられる。2019/03/09