内容説明
“理性的人間たちの合意”という美しい虚構を、「個人」「主体」「意識」といった概念にさかのぼる新しい人間論によって批判する。ルーマンのシステム論に再照明をあてる論文集。本書は、ドイツの社会学者ニクラス・ルーマンが一九九五年五月にウィーン市廰で行った講演に基づく小冊『近代科学と現象学』と、八〇年代後半以降の論文一四篇を収めた論集『社会学的啓蒙6:社会学と人間』から抜粋した六篇の論文、計七篇から成る翻訳論文集である。諸論文は相互に補完し合って、第一論文を現代における国際的・国内的な無秩序化から説き起こし、第七論文はその現実に対応すべき社会理論の課題を明示している。
目次
1 近代科学と現象学
2 意識はコミュニケーションにどう関わるか
3 社会分化と個人
4 「人格」という形式
5 主体の欺計と、人間とは何かという問い
6 間主観性かコミュニケーションか―社会科学理論の異なる出発点
7 インクルージョンとエクスクルージョン
著者等紹介
村上淳一[ムラカミジュンイチ]
1933年京都に生れる。1956年東京大学法学部卒業。1993年東京大学名誉教授。桐蔭横浜大学終身教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
roughfractus02
8
人間を中心に据えた近代は、現実を時間や空間に極限化し、さらに座標化して今ここに生きる現実から離れた。この点を批判して運動し知覚する身体からヒト生命体の生きる「生活世界」を記述する道を作ったのが現象学である。当初から現象学に影響を受けた著者は、人間である観察者が人間を対象とする際の自己言及的な記述(超越論的還元)を、生物学由来のシステム論のベースに取り入れ、社会学の刷新を試みる。本書に選ばれた7論文には、主観性を批判する現象学からシステムにおける経験の「描写の描写」へ展開していく著者後期の意欲が見て取れる。2024/07/25
Max Brown
1
『社会学的啓蒙(第6巻)-社会学と人間(Die Soziologie und der Mensch)』収録の論文を中心に纏められた、後期ルーマンの論集。『法社会学』に引き続き、村上先生による訳が良く、読みやすいのが嬉しい。内容としては、社会システム理論と現象学との関連性やシステム論から見た「人間」概念など、多くの興味深い論点が含まれており、面白く読めただけでなく後期ルーマンのアイディアに対する理解が更に深まった気がする。また、独立した論文を纏めた形ではあるが、各論文が内容的に繋がっているのも良かった。2013/07/18
抹茶ケーキ
0
『社会学的啓蒙』という大著の抄訳。タイトル通り人間概念についての論文が7本集められている。基本的には人間概念の有効性を批判している。あとは現象学とくにフッサールへの言及が多い。かなり大きな影響を受けていることが窺える。排除と包摂についての最後の論文は全体の流れから見ると少し飛んでいるようにも感じたけど、最近の社会学で問題になっている排除の問題をシステム理論から解釈するとどういうことになるのかってことがわかって面白かった。2016/03/08
じょに
0
論集。