出版社内容情報
これは愛なのか、苦悩なのか……。心を病んだ妻。発病から死に至る足かけ8年、妻を見つめながら書き続けた魂の文学。まさに上林曉を上林曉たらしめた、孤高の私小説集。文庫オリジナル。
◆上林の妻・繁子は、1939年7月に精神に病を発し、46年5月に死去。8年におよぶ闘病中、3度の入退院を重ねた。この間、上林はひたすら自身と妻をモデルに、私小説を書き続けた。
◆この8年は、日米戦争を挟む時期であった。3人の子どもたちを郷里の高知に疎開させ、一家は離散。食べるものにも困窮する日々であった。
◆妻の病は徐々に、しかし確実に蝕まれていった。戦中の栄養失調、行き届かぬ医療、衛生状態の悪化から、視力も失われてゆく。「錠前と鉄格子」のある病院で、妻は孤独に死を待つこととなる。面会も間遠になり、上林が妻の最期を見届けることはできなかった。
◆本文庫では、過去に刊行された「病妻もの」の収録作を軸としつつ、作品を増補し、発病から死去、そして埋葬に至るストーリーを、さながら長篇私小説としても読めるように構成した。
◆収録作:林檎汁/夜霊/悲歌/明月記/命の家/風致区/聖ヨハネ病院にて/遅桜/嬬恋い/庭訓/弔い鳥/聖ヨハネ病院にて
◆本文から:
お父さんは、小説の中には、包み隠さず、あからさまに何も彼にも書いたよ。小説を書く以上、そこまで突き詰めて書かなくては承知出来なかったんだ。嘘や隠し立てをして、自分の境遇をごまかしては、作家の道がすたれるとさえ思ったのだ。そこで、この八年のお父さんの作家生活と言えば、お母さんの病気と取組むことで一杯だった。苦しかった。けれどもそれが、どんなに救いになったことか。そのためお母さんの病気に堪え抜くことが出来た。そして、お父さんの作品が多少とも人に読まれるようになったのも、お母さんの病気のおかげだった。若しお母さんの病気と取組まなかったら、お父さんは中途で参っていたかも知れぬ。或は堕落していたかも知れない。少なくともお父さんという作家は世に知られずにすんだかも知れない。――「庭訓」より
内容説明
心を病み、「錠前と鉄格子」のある病院で、孤独に生きる妻。発病から死に至るまでの足かけ八年、病魔に蝕まれてゆく妻と苦悩する自身をモデルにひたすら紡がれた魂の文学。上林曉の作家人生を深化させた「病妻物」から、十二篇を精選した、孤高の私小説集。文庫オリジナル。
著者等紹介
上林曉[カンバヤシアカツキ]
1902年、高知県生まれ。本名・徳廣巖城。東京帝国大学文学部英文科卒。改造社の編集者を経て、作家の道に進む。精神を病んだ妻との日々を描いた『明月記』、『聖ヨハネ病院にて』、脳溢血によって半身不随となった後に発表した『白い屋形船』(読売文学賞受賞)、『ブロンズの首』(川端康成文学賞受賞)など、長きにわたって優れた私小説を書き続けた。80年死去
山本善行[ヤマモトヨシユキ]
1956年、大阪府生まれ、関西大学文学部卒。古書店「古書善行堂」店主(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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