出版社内容情報
【各紙誌で話題を呼んだ哀しくも愛しい幻想譚、待望の文庫化!】
その人は、もういないかもしれない。
もういなくても――確かにここにいた。
お針子の齣江や向かいの老婆トメさんが、
いつ、どこから来て棲み始めたのか、長屋の誰も知らない。
正体不明の男「雨降らし」が門口に立つとき、
そこには必ず不思議が起こる。
少しずつ姿を変える日々の営みの中に、
ふと立ち上る誰かの面影。
時を超え、降り積もる人々の思い。
路地にあやかしの鈴が響き、
彼女はふたたび彼と出会う――。
「いつかの人々」が囁きかけてくる感動長篇。
内容説明
ここは、「この世」の境が溶け出す場所―お針子の齣江が、皮肉屋の老婆トメさん、魚屋の少年・浩三らと肩寄せ合う長屋では、押し入れの奥に遊女が現れ、正体不明の「雨降らし」が鈴を鳴らす。秘密を抱えた路地を舞台に繰り広げられる、追憶とはじまりの物語。巻末に堀江敏幸氏と著者の対談を収録。
著者等紹介
木内昇[キウチノボリ]
1967年東京都生まれ。出版社勤務を経て、2004年に『新選組 幕末の青嵐』で小説家デビュー。11年『漂砂のうたう』で直木賞を、14年『櫛挽道守』で中央公論文芸賞、柴田錬三郎賞、親鸞賞を受賞する(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
1 ~ 1件/全1件
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ミスランディア本棚
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
タイ子
90
時代背景は明治か大正の頃、細長い路地に沿って建つ数件の長屋。そこに暮らす貧しくとも明るく生きる人々。でも、何かがある、何かがおかしい・・・。この感じが本作を幻想的に魅惑的に謎めいて読ませてくれる。お針子の駒江、年老いたトメさん、駒江の元に糸を届ける糸屋、魚屋のおかみさんと息子たち、和菓子屋の店主。日々の糧と勉学に勤しむ人たちは誰もが本当はこの世の人なのか。あの世とこの世をつなぐ糸はどこにあるのか。移ろう四季の中で人々が交わり、楽しむ姿が切なく胸の中が温かくなるような幻想譚。2019/07/14
naoっぴ
65
文庫にて再読。なんと叙情豊かな物語だろう。彼岸と此岸のあわいの場所で、失われたときを生きる人たち。セピア色を感じさせる風景、降り始めの雨の音、路地裏に響く下駄の音、夜闇にほんのり浮かぶ能舞台、息を殺して見入る人々。文字のむこうに見えるたしかな気配を感じながら、人と人の哀しくも優しい邂逅を読む幸せ。影、火鉢、防腐剤を使わない標本、名前の彫られたルーペといった小道具も印象的で、思い返すだけでも切なくなる。ラストの輝きがまた素晴らしい。儚くて美しくて、もう大好きな本。2021/10/29
エドワード
64
長屋<よこまち>に住む市井の日常。裁縫で生計を立てる齣江と、魚屋の次男・浩三の交流を中心に、トメ婆さん、糸屋、質屋、和菓子屋など様々な人が行き交う。これはいつの話かな?中学入試、バス停、人絹が出て来るから大正くらい?テレビもラジオもないけれど、四季の移ろい、祭り、神様、動植物に彩られ、何と繊細で豊かな暮らしだろうか。雨も風も情趣に満ちている。中学生になった浩三が薪能を鑑賞し、赤穂浪士に詳しいなど、今とは異なる感覚も新鮮だ。「夏が朽ちる」等、章題の美しさ。最後に消えゆく人々。夢か幻か、不思議な余話の残響。2019/06/14
saga
60
「違う世界へ出ちまうんじゃないか」と案ずる浩三少年。自らの影と会話できる彼だからこそ経験できた不思議な世界。時代は明治・大正だろうか。江戸言葉が残り、暗闇の中に異世界の入り口がぽっかり開いているような世界観が良かった。齣江やトメ婆さんは……逆神隠しと言えばよいだろうか? 全体的に美しい文体で、中でも「雨が、暮らしの音や生き物の気配を消していく」という表現が素晴らしいと思った。2023/05/02
shizuka
59
読み直すたびに温かい気持ちになれ、また新しい発見がある。道を見失いそうになったときに手を差し伸べてくれているのではないかと、勝手に思っている。この世界観が好きで好きで、一方通行の想いがもどかしい。この本に恋をしているんだよ。だれかに本を贈るのは、こちらの想いを押しつけているようであまり好ましくないのだろうが…。自分の言葉で何かいうより、本を通じて何かを感じ取ってくれたらうれしいなあ、心になにか残ったらうれしいなあとそれだけを託し贈りたい。その人に必要なければ、きっとあるべきところへ戻っていくだろうと信じ。2019/07/13
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