内容説明
若き日のフランス滞在で磨きをかけた食の感性、そして美味なるものへの飽くなき探求心。美食の日々を経て「食の神髄は惣菜にあり」との境地へ至り、日常の中の美味に注ぐ情熱はますます旺盛となる。文士や画家との交友など、著者の人柄がにじむエピソードも交えた、食味随筆の傑作。
目次
わが食いしん坊
昨日の美味は今日の美味にあらず
一番食べたいもの
アジの味
煮ざかな
東京のフグ
どぜう
おでん
枝豆
きのこ料理〔ほか〕
著者等紹介
獅子文六[シシブンロク]
本名・岩田豊雄。1893年横浜生まれ。慶應義塾大学文科予科中退。1922年から三年間演劇研究のためフランスに滞在。帰国後演劇活動を開始し、演劇評論を発表する一方、獅子文六の筆名で、小説『金色青春譜』『悦ちゃん』などを発表し、作家としての地位を確立する。37年、文学座の結成にあたり、幹事として劇作、演出に終生尽力した。63年芸術院賞受賞、69年文化勲章受章。同年12月13日、七十六歳で死去(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ユメ
41
獅子文六は自らを「グウルマン」と称した。この語は食いしん坊の意で使っているときっちり但し書きがあり、「味覚の批評家なぞという、最も不幸な批評家になるのは、先刻もいうとおり、真平御免である」という一文から彼の食に対する矜恃がうかがえる。本書を読んでいると、獅子文六という人は、大変頑固でひねくれ者であるようだ。だが、彼がすぐ腹を立てるのには一本筋が通っていて、どこか憎めない、愛すべき老紳士だと感じられる。老いて味覚が変わろうとも「自分にウマいものは遠慮なく食っていく了見である」獅子文六は獅子文六なのである。2017/08/28
ヨーイチ
37
グルマンというか食いしん坊を自称する獅子文六の食エッセイ集。他に食味歳時記が名高い。思いの外、美食のコラムは少ない、戦後は流石の文六センセイも病気と老化で淡白になったと嘆いている。印象に残るのは、鹿児島とか宇和島疎開時の田舎の食料事情。変に観光していないのがいい。宇和島疎開は「てんやわんや」を思い出すが、酒と引き換えに新しく生まれた子の名付け親になるって話がおおらかでいい。勿論真面目に取り組んだ訳だが「安兵衛」という題名と共に秀逸。続く2017/02/12
いちねんせい
31
「要するに、その土地で食うものを食え」という一言が一番効いた。やっぱりここでいくらがんばって鍋でお米を炊いても日本のような仕上がりにはならない。パリのレストランの話もとても興味深いが、もしパリに住んでいたら、ここに書かれているレストラン(まだ営業しているところがあれば)に是非行ってみたいところである。2017/03/23
ソングライン
17
明治生まれの作者が幼き頃暮らした横浜で食したシナ料理の思い出、20代で留学したパリでの食したフランスの市民料理と痛飲したワインとアブサン、壮年となり総菜料理が一番になり、やはり日本食には日本酒が一番と語る作者。そして「わたしの食べ歩き」では、おそらく1960年代の東京の名店を食べ歩きます。私は酒に弱く、自分に弱く、大概のことに弱いから泥酔した、この言葉に共感です。2021/09/21
うた
15
食いしん坊としての獅子文六は、このわたやどぜうなど旨いものを実に旨そうに食べる人であり、嫌いなものは実に嫌そうに食べる人である。もうこう定義するのが一番しっくりくる。2017/02/19