内容説明
戦国の苛酷な権力者・太閤秀吉に仕えた堺商人の息子小西行長は、切支丹でありながら水軍の将として重要される。だが、それは世俗的な野望と、教えに背く朝鮮侵略戦争との板挟みとなることだった。苦悩の末、面従腹背の道を選び、朝鮮と密かな和平交渉を重ね続けるが…。行長の葛藤に充ちた生涯を描く。
著者等紹介
遠藤周作[エンドウシュウサク]
大正12年(1923)、東京生まれ、神戸に育つ。昭和25年、戦後初めての留学生として渡仏、リヨン大学で留学生活を送る。昭和30年、「白い人」により第三十三回芥川賞を受賞。昭和41年、『沈黙』により第二回谷崎潤一郎賞を受賞。平成7年(1995)、文化勲章受章、平成8年9月、死去(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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優希
98
虚構もなく、評伝として描いた小西行長像。その生き様が辛くて仕方なかったです。秀吉に仕えながらも、キリシタンであるが故に味わう葛藤も多かったのが苦しい。理解も共感もされず、周りを欺くように生きた生涯が体を突き刺します。キリシタンでありながら、信仰を同じくする者達からの勢望を失い、鉄の首枷を負ったのみならず、告解の秘蹟を拒んだが故の贖いが重く感じました。処刑により、生涯を閉じたキリシタンながらも、その信仰は彼の本質ではなかったのでしょう。野心がある故の罪が行長に刻まれ続けてきたのだと思います。2016/09/17
優希
53
歴史作家としての周作先生が書いた小西行長の評伝でした。徹底して論じているからか、生き様が痛みを伴います。秀吉に支えつつ、キリシタンであるという状況は心の葛藤になっていたのかもしれません。理解も共感もされず、周囲を欺くようにしか生きられなかったのでしょうか。キリシタンでありながら、信仰を同じくする人々からの絶望を失い、鉄の首枷を背負っただけではなく、告白の秘蹟を拒んだが故の重荷を見せられました。最期、神に祈りながら首枷で死したことを刻みたいですね。2021/05/14
金吾
24
○小西行長の生涯を少ない文献から著者の考えを存分にとりいれ、一つのストーリーにした作品です。キリシタンであること、武将でありながら商人の気質であることという当時における特異性のために面従腹背な生き方になっていったことが伝わります。ただ部下は可哀想だとも感じました。久しぶりに宿敵を読みたくなりました。2021/06/29
Tomoichi
20
悲劇のキリシタン大名「小西行長」の生涯を小説ではなく当時の最新研究を参考に史伝として描く。文禄慶長の役時の苦悩、加藤清正との対立、キリシタンとしての苦悩、そして関ヶ原の敗戦。謎が多い彼の生涯であるが同じキリスト教徒の視点で描く本作は豊臣期の裏面史としても面白い。しかし彼の悲劇は「水の人」であったことよりも「キリシタン」であったことではなかったか。キリシタン禁教の原因を作ったのは彼ら宣教師自身なのだから。2017/01/22
たぬ
19
☆3 小西行長のことはまるで知らなかった。三成&恵瓊とともに処刑された人なのですね。しかし秀吉鬼畜すぎない? 数万人規模で殺してる。幼児含む甥っ子一家だって容赦なく処刑するんだから。私の中での秀吉の評価はこれで激落ちしたわけですが、逆に高山右近と石田三成は上がりました。二人とも人柄良さそう。しかし本作は小説というよりもガチレポートのようでエンタメ性は皆無でした。なので遠藤周作にしては非常に厳しい3点止まりです。2025/03/28