内容説明
後の“楯の会”結成のきっかけとなった民族派青年たちとの出会いを予言するかのような短篇小説「荒野より」をはじめ、東京五輪観戦記「オリンピック」、エッセイ「日本人の誇り」「ナルシシズム論」、戯曲「アラビアン・ナイト」等、四十路を迎えた作家の心境を現した作品集。
目次
第1部 小説(荒野より;時計 ほか)
第2部 エッセイ(谷崎潤一郎について;ナルシシズム論 ほか)
第3部 スポーツ(オリンピック;実感的スポーツ論 ほか)
第4部 紀行(ロンドン通信;英国紀行 ほか)
第5部 戯曲(アラビアン・ナイト)
著者等紹介
三島由紀夫[ミシマユキオ]
1925(大正14)年東京に生まれる。本名、平岡公威。学習院高等科を経て東京帝国大学法律学科を卒業。在学中の44(昭和19)年に処女創作集『花ざかりの森』を刊行。戦後47年に大蔵省に入り翌年退官。49年に刊行した『仮面の告白』で名声を確立し、以後、文筆活動に専念する。『潮騒』にて新潮社文学賞、『白蟻の巣』にて岸田国士演劇賞、『金閣寺』にて読売文学賞、『絹と明察』にて毎日芸術賞、『サド公爵夫人』にて芸術祭賞などを受賞した。68年、「盾の会」を結成し、70年、自衛隊市ヶ谷駐屯地で自決(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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優希
37
四十路を迎えた三島の作品集になります。小説、エッセイ、スポーツ、紀行、戯曲と盛り沢山な内容で、あまり見られない三島の顔を見ることができます。1人の作家の心情を表していると言っても良いでしょう。2023/12/08
くみ
20
図書館で目が合いました。評論は硬派で一言一言刻むような印象。その一方小説や戯曲は退廃的で甘美、繊細さを感じた。表題作「荒野より」は作者宅に熱烈すぎるファンが不法侵入してきた体験記。「侵入者の行動の源泉は孤独でそれを育んだのは自分の作品である」と作品を世の中に送り出す責任を率直に語る。侵入者に対し「同情はしない」と言うが無視せず精神的に対峙する様子に実直さと優しさを感じた。またスポーツにも熱心でオリンピックやボクシングの観覧記もあり。海外に行ってもボディビルのジムに通ってたようで可愛い(怒られそうですが)2018/02/21
SIGERU
17
再読してみて、『オリンピック』が面白かった。毎日新聞に掲載された、1964年のオリンピックルポだ。劈頭の「オリンピック反対論者の主張にも理はあるが」に、まず驚かされた。前回オリンピックの時も、そうだったのか?調べたところ、慎重論が意外と多かったらしい。莫大な財源、受け入れ態勢の課題、外人に不慣れ、そもそも自国開催して日本人が勝てるのか。なるほど。お祭り好きの三島は、例によって、オリンピックの祝祭性を強調した文意となっている。今回、コロナという特殊な状況下での開催は、どんな結果になるのだろうか。2021/07/14
しびぞう
4
人によっては、三十代半ばから四十代にかけてというのは、生きている中で一番死んでいる時期なのかもしれない。若くもなく、しかし、老いている状態も許されず、一番その人らしく生きているべきと世間から強制されているような気がして、己を失うのかもしれない。三島のそんな時期を切り取った本書は、その時期を(意図したか否かは別として)乗り越えた猪瀬直樹の秀逸なあとがきによって完成された。「この地はいわば歴史を蒸発させた忘却の里「ディズニーランド」なのだから」。かの遊園地を好きになれない理由がわかった気がした。2016/08/24
スリルショー
3
小説、エッセイ、戯曲がおさめられておりお得感がある。エッセイは谷崎潤一郎についてなど洞察鋭く知的エッセンスが効いている。自意識が強いせいか文章の歯切れが良く読者に爽快な感動を与える。なかでは、団蔵・芸道・再軍備はこの作家の死というものの考え方が披露されている点が面白い。小説は三編とも小品で煙に巻くようなストーリーだが巻末の猪瀬直樹氏の解説に詳しく、とても重要な作品であることがわかる。解説もグーであり猪瀬氏のペルソナ 三島由紀夫伝もいずれ読んでみたくなった。戯曲アラビアンナイトはお色気ありの娯楽性豊かな作品2020/01/13