内容説明
第一次・第二次大戦では武器によらざる「プロパガンダの戦い」もまた熾烈に展開された。昭和十七年から外務省ラジオ室でその最前線にあった著者は、対敵宣伝に関する書物を調べ各国の特徴を分析するなかで、英国の宣伝技術の優秀性をみる。実体験に裏付けられた今日の宣伝・報道の本質に通じる視角。
目次
第1章 外務省のラジオ室(ロンダヴァレーへの旅;ラジオ室の大活躍 ほか)
第2章 第一次世界大戦の対敵宣伝(初期のプロパガンダ;フランスのプロパガンダ ほか)
第3章 対敵宣伝の教科書(『武器に依らざる世界大戦』;『是でも武士か』 ほか)
第4章 各国の戦時宣伝態度(ドイツは論理派;フランスは平時派 ほか)
第5章 第二次世界大戦の対敵宣伝(各国の放送宣伝戦;ドイツ映画『オーム・クリューガー』 ほか)
付録 『対敵宣伝放送の原理』
著者等紹介
池田徳眞[イケダノリザネ]
1904年(明治37)東京に生まれる。徳川十五代将軍徳川慶喜の孫にあたり、旧鳥取藩主池田氏第十五代当主。東京帝国大学文学部を卒業した後、オックスフォード大学に留学、旧約聖書を研究。帰国後、外務省、陸軍参謀本部、日本赤十字社等に勤務。外務省ラジオ室では諸外国の短波放送を傍受する仕事を統括し、陸軍参謀本部駿河台分室では、英米の捕虜を使った対敵謀略放送を指導した。1993年(平成5)没(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
非日常口
33
現在、銃乱射テロにおいてオバマ大統領が国内を固めるために発表をしたその内在論理を本書で確認する。WWⅡは米の圧倒的物量で終結したため、本書は情報戦のエッセンスが各国の実力がある程度拮抗したWWⅠからその分析を行っている。宣伝に出る癖はその国の特徴であり弱点にもなる。最後の漢字とカタカナの章こそ本書の凝縮であり、宣伝技法の真髄は英にあることがよくわかる。SNSでニュースが読むことを効率的と考える人がいるが、シェアによって介在が増えることは伝言ゲームのごとくズレ、また情報の耐エントロピー構造を強化する。2015/12/14
非日常口
30
「宣伝とは、他人に影響をあたえるように物事を陳述することである。」イイネなどポジティブな反応を強要するSNSの氾濫により「相手の気持ちがわからなければ対敵宣伝はできない」(p72)という部分が欠落してきている。現実性のないキレイな言葉を連ね、それに賛同するだけの人を見て自分の理解者と錯覚し、その他を排除する事が横行し始めているが、価値観の異なる人々の気持ちを真摯に考える機会が減っているのではないか?平易に英仏独(米)露の宣伝思想や日本宣伝戦史を語る本書は、現代の人間関係の問題の要諦はココに警鐘される。2015/07/27
非日常口
26
「付録 対敵宣伝の原理」の要諦のまとめ【宣伝態度】没我法/攻勢法/能動法、【表現強度】反復法/関連法/追求法/多弁法-沈黙法、【表現形式】演出法/音楽法/韻文法/命名法/新奇法、【表現内容】間接法/暗示法/虚偽法/神秘法、【論議】具体法/理性法-感情法/諧謔法/質問法/比喩法、【余裕】賞賛法/同情法/肯定法、【時期・機会】先手法、【付録】独米英の宣伝態度:英は謀略派也。2015/12/26
横浜中華街2024
19
佐藤優氏が推薦していたので読んでみた。1981年に出版。著者は徳川慶喜の孫で、日本外務省情報部調査第三課の事務官の樺山資英と共に、インテリジェンス活動の一環として大戦中にアメリカ合衆国やイギリスの短波放送を傍受した記録である。しかしながら、内容の半分は第一次世界大戦中のプロパガンダの分析で、アメリカ・イギリス・フランス・ドイツなどを比較して、イギリスが最も効果的な戦争プロパガンダを行ってきたと結論している。2022/10/10
Toska
12
著者は戦時中、外務省で対外謀略放送に従事した人。当時の回想の他、付録に昭和18年作成の『対敵宣伝放送の原理』という文書もついていて参考になる。理論面では色々と考えていたものの、機材の不足や組織的な問題(外務省と軍とが別々に活動)などもあって苦労したようだ。本筋とは関係ないが、冒頭に出てくる陸軍大尉が「日本人の根性がなくなるから生活水準を上げるべきではない」などと頭おかしい主張をしているのに笑った。軍人脳も極まるとこうなるのか。2024/04/25