内容説明
遠く隔絶された場所から、彼らの声は届いた―慎み深い拍手で始まる朗読会。祈りにも似たその行為に耳を澄ませるのは、人質たちと見張り役の犯人、そして…。人生のささやかな一場面が鮮やかに甦る。それは絶望ではなく、今日を生きるための物語。しみじみと深く胸を打つ、小川洋子ならではの小説世界。
著者等紹介
小川洋子[オガワヨウコ]
1962年、岡山市に生まれる。早稲田大学第一文学部卒。88年、「揚羽蝶が壊れる時」により海燕新人文学賞を、91年、「妊娠カレンダー」により芥川賞を受賞。2004年には『博士の愛した数式』で読売文学賞及び本屋大賞、『ブラフマンの埋葬』で泉鏡花文学賞、06年に『ミーナの行進』で谷崎潤一郎賞、13年に『ことり』で芸術選奨文部科学大臣賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ミカママ
563
長らく積んでいたのは、言いようのないタイトルの陰鬱さ。一時期むさぼるように読んだ小川さんの作品と、『アンネの日記』より連なる死生観のようなものを切り離すことはできないが、今作もそれを強く感じた短編集だった。人の心や人生を、のぞき見させてもらうような居心地の悪さとともに。佐藤隆太さんのあとがきがまたいい。あんな二枚目(死語?笑)が、こんなカッコいい文章書くんだ・・・ということで映像化作品も探してみることにする。2023/03/01
ろくせい@やまもとかねよし
492
人間は生きる上で、大切な想いを抱く。その想いは多様であるが、唯一共通するのは他者への尊敬であると、素晴らしい構成と優しい表現で紡ぐ物語。良本に違いない。劇的に涙するほど心を揺すらない。しかし、読後も長い時間、ゆっくり、しかし確実に心を揺すり続けられた。死と接した8名が吐露する忘れ難い想い出。それぞれは他愛もない日常の出来事。他愛もない出来事がそれぞれの人生で大切な想い出となった意識を、言葉を尽くし説明することに挑戦する印象をもった。人間は多様であり、事実を受け止める感動や意識に均一性がないことを再認識。2019/11/14
さてさて
431
八人それぞれが歩んできた人生が、それぞれの短編の最後でそれを語った人の年齢、性別、職業、そして人質になったツアーへの参加理由が『インテリアコーディネーター・五十三歳・女性 / 勤続三十年の長期休暇を利用して参加』というように記されることで、その人の人生がどういうものであったかを短編の中にふっとイメージさせるこの作品。今はもう死者となった人達の語りという前提が作品冒頭に記されることでその後に続く物語が連作短編のように意味を持つこの作品。小川さんの巧みな構成の妙を存分に味わうことのできる素晴らしい作品でした。2022/02/12
ehirano1
393
人質と犯人グループが朗読を介して何かが生まれる話かと思って手に取りましたが、開幕早々に犯人グループは人質諸共爆死で(9ページ目で判明するからネタバレじゃないと信じたいです)、私は途方に暮れました・・・。2019/09/08
三代目 びあだいまおう
333
小川作品に共通する静謐で少し湿り気を帯びた冷たい空気が漂う世界。そして何故か死がたゆたう。地球の裏側で突然反政府軍ゲリラの襲撃を受け人質として捕らえられた日本人8人。明日をも知れぬ命の行方への恐怖さえ麻痺した頃にふと始まった朗読会。それぞれが語るのは過去。未来を思い描けない今、唯一確実に存在するのは『過去』なのだ。自身を形作る根幹となった思い出や何故か印象に残る体験は、きっと誰もが持つ『確かな過去』であり、同時にその刹那の主人公は自分自身。世知辛く不透明な未来を憂うのでなく確かな足下を見やり生きよ‼️🙇2019/03/14