出版社内容情報
日本の福祉システムが破綻し、スラム化したかつての繁華街〈シブヤ〉で生きる少年・イオン。希望なき世界のその先には何があるのか。〈解説〉雨宮処凛
内容説明
福祉システムが破綻した日本。スラム化したかつての繁華街“シブヤ”の野宿者・イオンは、闇を根城にする若者たちと出会い、アンダーグラウンドに足を踏み入れる。NGO「ストリートチルドレンを助ける会」、女性ホームレス集団「マムズ」…彼の「優しいおとな」はどこにいるのか。桐野夏生が描く、希望なき世界のその先とは。
著者等紹介
桐野夏生[キリノナツオ]
1951年、金沢市生まれ。成蹊大学卒。93年『顔に降りかかる雨』で江戸川乱歩賞、98年『OUT』で日本推理作家協会賞、99年『柔らかな頬』で直木賞、2003年『グロテスク』で泉鏡花文学賞、04年『残虐記』で紫田錬三郎賞、05年『魂萌え!』で婦人公論文芸賞、08年『東京島』で谷崎潤一郎賞、09年『女神記』で紫式部文学賞、10年『ナニカアル』で島清恋愛文学賞、11年同作で読売文学賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
393
時は明示されないが、近未来SFだろう。物語の舞台は渋谷とその周辺だ。そこは、マッカーシーの『血と暴力の国』、あるいはオースターの『最後の物たちの国で』を思わせる荒廃した世界である。しかも、イオンは幼児のほんのかすかな記憶の中でしか兄弟・姉妹などの係累を持たない。両親に至っては記憶すらない。そんなイオンを主人公にした、ある種のビルドゥングスロマンなのだが、その索漠とした情景と心象がクールに、しかしその実熱く描かれる。終幕はこれしかないようにも思われるが、やや甘すぎるようにも思う。そして、読後は胸が熱くなる。2018/02/05
ミカママ
326
時は2050年あたり(勝手に推定)の近未来、場所はわたしもよく知る渋谷あたり。両親はもとより家族のあたたかみを知らずに育った孤児「イオン」が主人公。わたしが桐野さんに期待する毒もなければ、ラストはいろいろな意味でうまくまとめすぎ、という気もしたが、なぜか心にしみる。今や日本じゅう、いや世界じゅうがこういう社会に向かっているような、気味の悪さが残る作品でもあった。2018/04/08
M
92
近未来の東京、子供のホームレスが舞台か主題か知らないけど…何時であっても何処であっても、いわゆるアングラ社会って、どうも、そこに流れる暗黙の空気が読めずじまい。例えば、そんなとんでもないことしたら、放言したら、半殺しに遭うんじゃないかって思えば、簡単に笑って済まされ、逆に、なんでも無さそうなところで逆鱗に触れたり。この手の登場人物の感覚は反応が悉く予想外で、読んでいてついて行けないというか、寄り添おうとすると疲れる。。2017/12/11
Tsuyoshi
85
社会福祉の崩壊により格差がより進行しホームレスが常態化するようになった未来の日本を舞台に天涯孤独で主人公イオンが様々な集団へ身を起きつつ、知り得ることのなかった「優しいおとな」や愛しき近しい者達の存在に気付く話。個人化が進みより世知辛くなる時代だからこそ見守ってくれる人々の存在や近しい人への感謝の気持ちが大事なのかなと思わさせてくれる作品だった。2018/05/05
k5
70
ストリートチルドレン、アンダーグラウンドというジュブナイル感の強い道具立て。松本大洋の『鉄コン筋クリート』みたいな。けっこう楽しく読んだのですが、オチはそれほど好きではなかったかな。こんなに収束させずに、謎を残したままの方が面白かった気が。2021/11/05