出版社内容情報
猫に嫉妬する妻と元妻、そして女より猫がかわいくてたまらない男が繰り広げる軽妙な心理コメディの傑作。安井曾太郎の挿画収載。〈解説〉千葉俊二
内容説明
猫に嫉妬する妻と元妻、そして女より猫がかわいくてたまらない男がくりひろげる軽妙な心理コメディの傑作。安井曾太郎の挿画収載。併録は美女とペルシャ猫への愛を高らかにうたう未完の小品「ドリス」。
著者等紹介
谷崎潤一郎[タニザキジュンイチロウ]
明治19年(1886)、東京日本橋に生まれる。旧制府立一中、第一高等学校を経て東京帝大国文科に入学するも、のち中退。明治43年、小山内薫らと第二次「新思潮」を創刊、「刺青」「麒麟」などを発表。「三田文学」誌上で永井荷風に激賞され、文壇的地位を確立した。昭和40年7月没。『細雪』により毎日出版文化賞及び朝日文化賞を、『瘋癲老人日記』で毎日芸術大賞を、また昭和24年には、第八回文化勲章を受けた。昭和39年、日本人としてはじめて全米芸術院・米国文学芸術アカデミー名誉会員に選ばれた(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ykmmr (^_^)
116
安井曽太郎などの巨匠までも、集っている豪華な文庫本。今でいう、『草食男子』よりもさらに甘ったるい男庄造。それで、飼い猫リーを愛する猫族である。しかし、そんな奴なのに、若干、お気が強めの元妻・現妻にも気持ちを寄せられているという訳。それが次第に、リーを3人の人間が囲む様な状況に陥る訳だが、猫ならぬ猫のリーに3人の人間が絆されてしまって…。マイペースで半自由に生きながらも、人間に可愛がられる仕草や甘えを持つ、動物イチの『器用さ』(半ば自論…。)を持つ猫の生態がテーマであり、粋。2022/11/25
HANA
44
猫愛がたっぷりと詰まった一冊。表題作の方、出てくる人間は庄造を始として何となく馬鹿っぽくて打算的なのに、それを無理に取り繕うとしているような印象を受ける。対してリヽーはそのような思惑から超然として己が成したい事のみをなす。何となく全編人間の俗に対して、猫の気高さの勝利を歌っているよう。「ドリス」は冒頭部分だけ読むと美容や猫に関する引き写しだけだったけど、それでも書かれているのはひたすら猫礼讃。美女と猫の対比、どうなるか読んでみたかったけど。ま、結局は可愛さ気高さは正義、すなわち猫は正義って事ですね。2013/12/15
syota
26
これほど魅力的な猫の描写は初めて。生活力ゼロだけど女にもてる庄造と、彼をめぐる前妻、後妻、姑の物語なのだが、登場人物が束になってもメス猫リリーの魅力にはかなわない。SMAPが全員集合しても犬一匹にかなわなかった、かつてのケータイのCM合戦を思い出す。実際、庄造が心から愛したのはリリーだけだったはず。周囲に押されていったん捨てたリリーを忘れられず、未練がましく会いに行く庄造の情けなさと、昔の主人を物憂げに冷たくあしらうリリーのクールなカッコよさが、なんともいえず印象的。猫好きの方、必読です。2016/09/01
まさむ♪ね
17
飼い猫のリリーを異常なまでに可愛がる男、庄造。そのダメ男だがなぜか人に好かれる庄造をめぐり、妻と元妻がリリーちゃんや周りの人たちを巻き込んで激しい?心理戦を繰り広げる。とにかく、このリリーちゃんの描写が細かいこと細かいこと。読中、すぐそばにリリーちゃんがいるような錯覚に陥ってしまった。谷崎さんの猫好きも相当なものだなあ。登場人物たちの軽妙でウイットに富んだ関西弁でのやりとりに何度も吹き出した。全体を通して滑稽なんだけど、リリーちゃんの衰えていく姿が哀愁を誘う。ちなみに弊録『ドリス』も猫。2013/09/15
nabe2511
16
己の欲と打算に生きる人間の滑稽さと悲哀が猫のリリーを巡り関西弁の会話も相まってテンポよく進んでいきます。庄造の不甲斐なさとおりんの策士ぶりが対照的で面白い。昭和31年に庄造/森繁・品子/山田五十鈴・福子/香川京子・おりん/浪花千栄子(おちょやん)で映画化されてたそうでぜひ見てみたい。令和ならと妻夫木聡・蒼井優・長澤まさみ・キムラ緑子さんあたりの舞台を妄想しながら楽しく読了。表紙の竹内栖鳳の「班猫」には昨秋、山種美術館でご対面したニャー。2021/08/03