内容説明
保守思想について述べた本は少なくないが、古今の思想史の中に位置づけた本は決して多くはない。保守思想自体に体系化を拒む面があるからだ。本書はその数少ないうちの一書であり、入門書にして思想の深奥にまで触れた名著である。歴史の知恵が凝縮した保守という考えを、危機の時代にあって明晰に捉えた本書の価値は、いま極めて大きい。
目次
地球の危機―帝国主義が蔓延する
情報の空虚―ITが空回りする
「戦後」の完成―アプレゲールの末路
感情の優位―合理の前提はどこにあるのか
葛藤の遍在―感性は錯綜している
平衡の必要―健全な精神は精神の曲芸を要求する
幻覚の不可避―精神のはたらきはすべて仮想である
持続の意義―リアリティの根拠を求めて
成熟の希求―常識という「死者の書」
愛着の必然―手段へのこだわりが生をゆたかにする〔ほか〕
著者等紹介
西部邁[ニシベススム]
1939年3月、北海道生まれ。1964年、東京大学経済学部卒業。東京大学教養学部教授などを経て、現在、雑誌『表現者』顧問。著書に『経済倫理学序説』(吉野作造賞)『生まじめな戯れ』(サントリー学芸賞)ほか多数(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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踊る猫
35
陳腐な「私語り」をするが、過去に西部の「衆愚」を批判する姿勢にどうしても馴染めなかったことを思い出す。それは端的にこのぼくもまた「衆愚」でしかありえない(教養もないしエリートでもない)という自覚によるものだった。でも「いま」虚心に耳を傾けると、西部の思考はむしろその鋭すぎる切っ先を西部自身にも向けて徹底的に分析・解析しようと「葛藤」しているように読める。だからぼくはこの本をお手軽な保守思想の教科書としては読めない。西部が(クサい言い回しではなはだ恐縮だが)実存を賭けて論じきった渾身の論考の詰め合わせと読む2024/04/22
無重力蜜柑
14
酷い本だ。どちらかといえばコンサバを自認する者として、保守思想の大家・西部邁の本はいつか読もうと長年思っていた。しかし本書は自分のうちに何の感慨も納得ももたらさなかった。あまりにつまらなかったため、最後の方は流し読みだった。まず何より文体が不愉快極まる。こんなルー大柴じみた文体で「日本」の「保守」について何が語れるのか? いかにも20世紀の学者な語源digや欧米語の連関による論理展開を筆者は多用する。だが、それが日本人および日本国家と何の関係があるというのか? 筆者はこの点について最後まで明らかにしない。2024/05/15
ドクターK(仮)
2
近代主義、個人主義、進歩主義etc…本書は今日の社会を牛耳るこれらの思想を糾弾し、保守思想の可能性を愚直なまでに追求する。我が国において、(まともな)保守思想は瀕死の状態にあると言えるが、「文明を再建するための礎石は保守思想のほかにはありえない、と気づかれるときがやがてやってこないともかぎらないのである。」(p.227)とあるように、氏は希望を捨てているわけではない。わずかな可能性であっても、自らが信じる道に生のエネルギーを注ぎ込むその姿勢こそが、保守思想の本質を体現しているのかもしれない。2013/05/07
くらひで
1
人間の営為は常に進歩するという前提に近代の文明社会が発展してきたというのは思い上がりかもしれない。今の政治経済・社会情勢・科学技術・外交防衛など、多方面でそのほころびが出ている。著者は、米国の属国として何の疑いもなく追従する大衆(=愚衆)国家である日本に警鐘を鳴らす。日本の歴史・文化・慣習を元に自省し、未来の指針を見出そうとする保守思想の特徴を解き明かす。保守主義を帝国主義・軍国主義・ナショナリズムと同一視するのは間違いだが、その傾向に走りがちになる世情に知識人が常に監視し正しい発言力を持つ必要があろう。2014/07/31
代理
1
59頁の、変化による利益と損失は、利益は不確実だが損失は確実だ。というオークショットの言葉が良かった。タイトルに主義を入れなかったのはなるほどなと思った。2013/06/16