出版社内容情報
野鍛冶、萱葺き、箕作りなど手仕事に生きる人々を全国に訪ね、来歴や職業的倫理観などを考察、記録する。「職人」を通して「仕事」の根本を考え直す好著。
内容説明
野鍛冶、萱葺き、箕作り、木挽、櫓・櫂職人など手仕事に生きる人々を津々浦々に訪ね、技の来歴や習得の方法、自然とのかかわり、職業的倫理観などを考察する。最後の手業師たちを通じて、現代日本における「仕事」の根本を問いただす。匠の技、伝承の危機に迫る名著、待望の文庫化。
目次
第1章 消えた職人たち(鍬や包丁を作る野鍛冶;柿屋根を葺く屋根屋 ほか)
第2章 輪廻の発想―尽きない材料(素材採集の季節;尽きない材料 ほか)
第3章 徒弟制度とは何だったのか(職人を育てる;師が父の場合 ほか)
第4章 手の記憶(新しい徒弟制度の試み;徒弟制度再考 ほか)
著者等紹介
塩野米松[シオノヨネマツ]
1947年生まれ。秋田県出身。作家。アウトドア、職人技のルポルタージュ活動をする一方で文芸作家としても四回の芥川賞候補となる。著書多数(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
澄
12
前半は廃れてしまいそうな職人技の紹介。木挽は個人的に認識しておらず勉強になりました。徒弟関係は現代社会には適応できないのか、、、、最終章の「満足したら終わり」は再考させられた。サラリーマンも同じで自分の仕事結果に満足していたらそれ以上向上できないのではないか。2014/08/21
デビっちん
8
さまざまな観点で、手仕事を職業とする職人の技術伝承が廃れてしまった原因が、本書には記載されていた。安価な大量生産物の流通による素材の不循環や最低賃金法の誕生による教わる立場からおカネをもらうのが職業といった価値観の変遷は、刹那的な利益を目的とした、近代化、効率化がもたらした弊害の一部である。技は言葉のように短時間では記憶できず、やってみて身体に染み込ませるまでくり返すしかない。師匠がやるようにできないから、頭を使って考え、身体感覚が研ぎ澄まされた。文明の利器に頼らない、自分だけの感覚を鍛えてみては?2016/01/23
mackane
6
「仕事=生き方」の時代は終わった。何を仕事とするかは、人生の中で複数ある選択肢の一つでしかない。人の仕事を機械がこなすことができるようになり、再利用を考える必要のなくなった大量生産の時代では、物を大切にする必要もなく、後先考えることも少なくなった。誰が何をしても変わらない。人はどんどん、入れ替え可能で刹那的な存在になっていく。そんな中で、人間の誇りや道徳は新しい局面を迎えるのか。知らぬ間に終わった旧時代の生き方。2011/06/12
さんとのれ
5
自然との共生とは手付かずの自然を無邪気に礼賛することではなく、それなりの代償を払いながら手入れを続けていかなければならない。一つの職業が消えるとこの手入れのサイクルが崩れることになり、他の職業や自然にも影響を与える。失われた手仕事の世界というとどうもセンチメンタルな面にばかり目が向いてしまいがちだけど、思っていたよりももっと重大なものを私たちは失いつつあるようだ。2014/01/30
Machida Hiroshi
4
重い読後感です。大切に積み重ね守られてきた職人の技が瞬く間に姿を消していく時代に僕は生まれ育ちました。科学の進歩が世界を良くすると信じている20世紀少年だったのです。科学と資本主義は生活を楽にしましたが、省かれた手間で人は本当に幸せになったのか?重い問いがのしかかります。便利で楽で良い時代です。でも、大事なものまで失っても良いわけではないでしょう。2014/07/25