出版社内容情報
若い侍女たちによる生首洗いといった異様な場面から語り起こされ、戦いのさなか敵に囲まれた城中で一つの謎がさらに別の謎を生み出し、もつれ合うように展開される物語。
内容説明
敵の首級を洗い清める美女の様子にみせられた少年。それは、武勇と残虐な行状とで世にきこえた武州公の幼き日の姿であり、その心の奥底には「被虐性的変態性慾」の妄想と恐るべき奸計の萌芽が―。戦国時代に題材をとり、奔放な着想をもりこんで描かれた伝奇ロマン。雑誌『新青年』連載時に掲載された木村荘八の挿画を完全収載。
著者等紹介
谷崎潤一郎[タニザキジュンイチロウ]
明治19年(1886)、東京日本橋に生まれる。旧制府立一中、第一高等学校を経て東京帝大国文科に入学するも、のち中退。明治43年、小山内薫らと第二次「新思潮」を創刊、「刺青」「麒麟」などを発表。「三田文学」誌上で永井荷風に激賞され、文壇的地位を確立した。『痴人の愛』『卍(まんじ)』『春琴抄』『細雪』『少将滋幹の母』『鍵』など、豊麗な官能美と陰翳ある古典美の世界を展開して常に文壇の最高峰を歩みつづけ、昭和40年7月没。この間、『細雪』により毎日出版文化賞及び朝日文化賞を、『瘋癲老人日記』で毎日芸術大賞を、また昭和24年には、第八回文化勲章を受けた。昭和16年、日本芸術院会員、昭和39年、日本人としてはじめて全米芸術院・アメリカ文学芸術アカデミー名誉会員に選ばれた
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
370
正史と思しき「筑摩軍記」と私記「道阿彌話」及び「見し夜の夢」を主な典拠として(いずれも架空の文献かと思われる)武州公の一代記を語る形式をとる。就中、武州公のいたって特殊な性癖を語るのであり、それが「秘話」と冠する所以でもある。彼の討ち取られた首級、とりわけ鼻を削ぎ落された首への執着は、元服前13歳の時に垣間見た光景によって強く刻印された。その後の彼の生と性はその呪縛に支配され続けることになる。ただ、物語の序盤で何度もその特殊なることが協調されていた割には、為されたことはいかほどのものでもなかったのだが。2021/10/05
優希
67
最初が漢文なので戸惑いますが、本編に入れば結構スラスラと読めました。戦国時代に題材を取り、被虐性的変態性慾の世界が妄想のように広がっていました。戦国武将・武蔵守輝勝の幼い日に見とれたのは敵の首を洗い清める女性の姿というのが残酷な風景なのに美しかったです。普通でいけば不快なものなのに、凛とした雰囲気を感じ、恍惚へと導かれていきました。格調高い美意識は闇の先に広がる妖しの世界だと言えるでしょう。エロティックさが薄いのが少し残念なところでしょうか。2015/05/07
うえうえ
19
随所に谷崎の美しい文章の陰影を味わうことが出来る。トイレのところは笑わそうとしているのかそういう性癖さえ仄めかそうとしているのか。侍女と坊主が残した文章を巧みに織り交ぜ展開するという高度な離れ業をやってのけている。そのお陰で物語にも文体にも深みが出ている。読んでいるときは実際こういう文章が残っていてそれを谷崎が小説に取り込んでいると錯覚するほど巧みに文体を使い分けている。2018/12/11
sabosashi
18
さながら『鼻』と名付けてもよかった作品。禅智内供の鼻が陽とすればこちらは陰か。どっちみち、どちらの話も秘話であることにかわりない。でも鼻の周りを巡るようにみえてもときは戦国時代。そのストーリー自体がユニークであるが、主人公のアイデンティティに数奇なるものあり。こういう取り合わせはフィクションのようにみえて実際にもありえたのではないかと勘ぐってしまいそう。でもそれなりに抑えてある印象。ストーリーの面白さに引き回されたという具合か。2023/06/15
eihuji
16
【大谷崎体験其之捌】冒頭の漢文に早くも目を逸らしかけたが読めないなりに文字だけを丹念に辿ってみると愛小童・男色・性生活となかなか不穏な空気。極めつけは「公亦被虐性的変態性慾者也矣」と、どさくさに紛れしっかり予告をなさっております。虚構の物語の主人公は武蔵守輝勝。戦国期の武蔵守と云えば鬼武蔵の異名のある森長可が浮かぶ。異名の通り織田軍きっての猛将だが弟の蘭丸同様、小姓時代は信長に寵愛されたなと読後にちょっと調べてみると小牧・長久手の戦で討死後、徳川軍に鼻を削がれている。長可も人物造詣に一役買っていたのだ!2018/03/12
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