内容説明
小説を書く根拠、目的、方法について、様々な例を挙げながら、生き生きした口調でわかりやすく語りかける。自身が担い続けてきた使命や文学の未来について、熱く説く様は次世代への遺言ともいえる稀有な作品。『小説への序章』にはじまり、『情緒論の試み』を経て「小説とは何か」という問いに対する最終的解答ともなっている。
目次
1 小説の魅力―in love with 生命のシンボルに触れる(小説を書く根拠;ぼくの世界;「言葉」と「想像力」;生命のシンボル;上にいく力と下にいく力)
2 小説における言葉―Fact+fe`eling 言葉によって世界をつくる(小説は言葉の箱;心のなかを無にする;夏目漱石の『文学論』;物語(ストーリー)の原型
キャラクターとディテール)
3 小説とは何か―´ev´enement ある出来事をつくる(出来事をどう伝えるか;出来事とは何か;フィクションの意識;詩と根本観念と言葉;ピアニストがピアノを弾くように)
著者等紹介
辻邦生[ツジクニオ]
1925(大正14)年、東京生まれ。東京大学仏文科卒業。57年より三年半パリ大学に留学。63年、『廻廊にて』で第四回近代文学賞、68年、『安土往還記』で芸術選奨新人賞、72年、『背教者ユリアヌス』で第十四回毎日芸術賞、95年『西行花伝』で第三十一回谷崎潤一郎賞を受賞。99年7月29日死去
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
i-miya
55
2013.05.20(つづき)辻邦生著。 2013.05.18 コリン・ウィルソン(1931-) ぼく自身のこと。 終戦、20歳。 現実、やるべきこと多かった。 が、無視して文学の仕事、つまり現実逃避のようなこと。 机の前に座る。 何か強い信念があったわけではない。 理系であり、医者になるほうが、そのほうが文学的であったのではないか。 それもあり、日産ディーゼルに入った(当時、民生ジーゼル)(嘱託)。 午前、大学、午後、仕事。 自分で勝手に思っているだけで、現実ということを知っていたわけではない。 2013/05/20
i-miya
44
2013.05.14(初読)辻邦生著。 (あとがきにかえて=奥さん=『記憶と忘却の間に』) このところ主人の仕事や暮らしぶりについて書く機会が多い。 追憶というにはあまりにも生々しい存在感。 冷静に、私が知る事実を記録したい思い。 2000年を迎えた。 ここに三冊目。 「メタローグ、小説の魅力」講演。 茶目っ気たっぷりのところもある。 臨場感。 「浮舟」。 木村栄一さん、ガルバス・リョサ『若い小説家に宛てた手紙』の解説。 2013/05/14
i-miya
34
2013.05.18(つづき)辻邦生著。 2013.05.17 思索と創作の並立・分離。 若い頃、「仕掛け帳」と「書屋」と呼ぶ、それぞれ2冊の手帳。 (1)「仕掛け帳」、(2)「打出の小槌」使い分ける。 わたしがは私で、マンガ『辻邦生の肖像』を描く。 有る時期から混然一体となる。ジャズを聞き、猛スピードで、暴言す、相手はなんと、警察官。 漱石、「F+f」。 創作学校企画、安原顯さんに感謝。 (辻邦生) 1925生まれ、東京。 1957-1961、フランス留学。 2013/05/18
fishdeleuze
25
理知的、分析的、実際的にメチエを語っている部分も興味深いのだが、直感的でインスピレーションに満ちた経験から導かれる言葉と辻の生命が流れ出るような、存在の喜びを語っている部分がとりわけ忘れがたい。〈いまここにいる〉〈わたし〉の〈好きな〉世界を描くこと、その人でしかありえない〈わたし〉の世界を、言葉を用いて無からつくり上げること。〈わたし〉というものおよび、〈わたしの世界〉というものによせる信頼感、肯定感の強さが印象的だ。2015/07/14
Koki Miyachi
9
小説を書くということを、ここまで明快に語った本を知らない。「ピアニストがピアノを弾くように」言葉に向かい合う。自分の周りの経験を書くことは、想像力した世界の大きさや自由に比べたらとるに足らないものなのだ。自分の好きな世界から得られるよろこびは「生命のシンボル」であり、それを持ち続けることが創造の源泉なのだ。現実の既知の世界をリセットして白紙に戻し、自分の感受性が直感でつかんだ心の奥底のイメージを、想像力で描き出すこと。それが小説を書くこと。残念ながら、それを実践できるかどうかは全く別なのだが。2013/05/16