内容説明
イスラーム教及び創始者ムハンマド(マホメット)の誕生と歴史は、キリスト教のように知り尽くされたとは言い難い。イスラームとは、ムハンマドとは何か。シリア、エジプト、メソポタミア、ペルシア…と瞬くまに宗教的軍事的一大勢力となってキリスト教を席捲した新宗教イスラームの預言者ムハンマドの軌跡を辿る若き日の労作に、イスラーム誕生以前のジャーヒリーヤ時代(無道時代)との関連の歴史的解明と、さらにはコーランの意味論的分析を通じてイスラーム教の思想を叙述する独創的研究を加えた名著。
目次
第1部 ムハンマド伝(沙漠の騎士道;享楽と苦渋;ムハンマドの出現;預言者召命 ほか)
第2部 イスラームとは何か(イスラームとジャーヒリーヤ;イスラーム―実存的飛躍;イスラーム精神とジャーヒリーヤ精神;イスラーム的信仰 ほか)
著者等紹介
井筒俊彦[イズツトシヒコ]
大正3(1914)年、東京に生まれる。昭和12(1937)年、慶応義塾大学文学部卒業。昭和43(1968)年まで慶応義塾大学文学部言語文化研究所教授。翌年、カナダ・モントリオールのマックギル大学イスラーム教授に就任、昭和47(1972)年、パリInstitut International de Philosophie会員、その後、イラン王立哲学アカデミー教授を経て、慶応義塾大学名誉教授、日本学士院会員となる。文学博士、専攻は東洋哲学、言語哲学。平成5(1993)年没
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感想・レビュー
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zirou1984
53
岩波文庫の『イスラーム文化』と並ぶ井筒俊彦による格好のイスラーム入門書。本書はイスラームの宗教が立ち昇る瞬間に焦点を当て、その当事者について情熱的とすら言える口調で描かれる「ムハンマド伝」と、無道時代(ジャーヒリーヤ)と言われる部族社会的、貴族的価値観を反転させるものとして生まれたその宗教性を時代私的に、意味論的に考察していく「イスラームとは何か」の二部構成。日本が誇る知の巨人、井筒俊彦の著作はどれも本当に面白く、所々で引用されるコーランの翻訳文もその重要な要素である詩情性に溢れているのが素晴らしい。2015/06/15
Yukiko
10
文章が力強く、イメージが豊かで読みやすかった。前半の「ムハンマド伝」は若い時に書かれたムハンマドの英雄記。後半の「イスラームとは何か」はイスラームという概念を分節化し、その内的意味構造の連関を分析した論文。アッラーに対する絶対的帰依の在り方が、それ以前の無道時代ジャーヒリーヤの時代の独立自尊の砂漠の民の精神と対比されていて、分かりやすい。ただ、この唯一絶対の人格神への帰依は、私の親しんでいる湿気の多い日本の宗教的風土とは、ほんとうに遠いなぁと思う。2015/05/06
roughfractus02
8
部族ごとに分かれ、血統を重んじ独立不覊の砂漠の民ジャーヒリーヤの前に聖書から啓示を受けたという男が現れ、アッラーへの絶対服従を説く。アブラハムへの回帰を唱えるムハマンドの教説が激しい対立の中で浸透する様を、本書はアラブ民族の中に入り込む聖書の唯一神概念やアッラー(The God)なるアラビア語の語用、憑依者=詩人としてのムハマンドの扱い等から検討する。こうして「自分の大事な所有物を人の手に渡す」という「イスラーム」の意味は、自らを絶対唯一の神に引き渡すと捉える男を通して、アッラーへの無条件の服従に変わる。2021/01/19
tom
7
山村修の「〈狐〉が選んだ入門書 」に紹介のあった本。イスラム教の出自と展開がとても分かりやすく書いている。解説者によれば、背景にあるの著者の「意味文節理論」だそうで、この内容は、解説を読んでも、さっぱり不明。でも、この本に書かれていることは、すらすらと頭に入ってくる。解説よりも本体の方がずっと分かりやすいという、珍しい本でもあります。人はアラーの奴隷とするところからの世界の見え方、倫理観、そういったものを少しは理解できた気がする。2012/07/14
ぱすこ
4
まさに始めに言葉ありき。タイトルどおり「生誕」の過程について丁寧に、極力、平易に述べようとされている文章に好感が持てる。といっても全て理解できたわけではないが、私のような初心者にも沁みとおるように入ってきた。古アラブの概念からムハンマドの「出現」、彼の生涯がコーランの中にまざまざとその変遷にあらわれていること、私がイスラムについて知らなさすぎるせいかもしれませんが、久々に、良質の知識を得た、と感じることができた読書体験でした。2016/03/28
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- 和書
- 土田世紀、描く語りき