内容説明
中国の文学や思想の影響が強まった万葉後期、変容する古代国家が残した歌は、その時代の心のありようを伝える。旅人・憶良・家持の分析を中心に、七夕などこの時期からの風習や言葉についても明らかにする。
目次
第1章 分期について
第2章 七夕の歌
第3章 表記法について
第4章 仮合即離の境涯
第5章 旅人讃酒
第6章 家持の軌迹
第7章 底辺の歌
著者等紹介
白川静[シラカワシズカ]
1910(明治43)年福井県生まれ。立命館大学名誉教授、文学文化研究所所長。1943年立命館大学法文学部卒。1984年から1996年にかけて『字統』『字訓』『字通』の字書三部作を完成させる
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
fseigojp
15
家持が防人たちの直截な詩文に打ちのめされ、文学的技巧のみになっている自分を嫌悪して万葉集編纂をエンディングした つまり政治闘争に敗北し実際的な改革にも乗り出せない大伴家の統領としての挫折との指摘は鋭い そして 詩経以後の中国の文化官僚の実際と比較しての考察はさすが2015/07/30
roughfractus02
7
律令社会は声から文字へ伝達方法を転換する。が、集団的な声は個々の文字にも残響する。著者は七夕の歌を枚方に渡来した百済人の集落とその習俗の集団表現と解する。仏教・儒教的世界観と教養の範囲を念頭に山上憶良の渡来人説を肯定する著者は、憶良が多く残した長歌が山部赤人にないとして区別し、その叙情を律令社会の文字と呪的自然の声との距離に見る。さらに、大伴家持の絶望は人麻呂との古今の隔絶として『万葉集』の構成に影響したと捉える一方、歌の型は古代中国の士人階級に当たる「底辺」の人々(防人や読み人知らず)から生じたとする。2020/12/11
はちめ
6
著者自身が書いているように万葉論の世界に何か新しい視点を加えようとしているのではなく、自分の中の万葉集に対する考えを形にしたかったということだと思う。後期の万葉集には呪歌としての意味合いも少なく、白川静の世界とはあまり関わらない。単なる歌人論や表記方法に関する議論であれば、あえて万葉集を白川静を通して読む必要性は少ないかもしれない。白川静は万葉集に現代語訳をつけていない分たくさんの作品が引用されているので、万葉集を読むという点においては良い1冊になっているかもしれない。☆☆☆2019/10/26
大臣ぐサン
3
まだ万葉集を読了していないせいもあるとは思うが、万葉集は難しい。西洋の古典は何となく理解できるのだが、同じ国に生まれ育っても万葉人と現代人とはこれほども思想が違うものか。まだまだ白川静ははるかに遠い。2016/04/13